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現代の浦島太郎と御伽草子の浦島太郎の内容のギャップ
浦島太郎というおとぎ話は現代において絵本や唱歌の形として語り継がれておりますが、その起源は奈良時代の日本書紀にまでさかのぼります。
それから時代が進み、室町時代の御伽草子の浦島太郎から竜宮城・乙姫・玉手箱が登場し、現代における浦島太郎の原型が定まりました。
現代の絵本・唱歌にある浦島太郎は明治政府が国定教科書に掲載した内容になっています。
ここで、室町時代の浦島太郎と明治時代の浦島太郎にはストーリーに大きなギャップがあります。
あまりにもストーリーが違い過ぎて、両者の物語の意味(作品のメッセージ性)までもが変わってしまっています。
本記事では両者の浦島太郎のストーリーを比較し、考察を挟みながらまとめていきたいと思います。
現代版 浦島太郎
ストーリー
現代版の浦島太郎のストーリーは1911年に作られた童謡・唱歌の浦島太郎が一番わかりやすいかな。
むかし~♪むかし~♪うらしまは~♪
助けた亀に連れられて~♪ってやつでしょ?
1,むかしむかし浦島は
助けた亀に連れられて
龍宮城へ来て見れば
絵にもかけない美しさ2,乙姫様のごちそうに
鯛やひらめの舞踊り
ただ珍しく面白く
月日のたつのも夢のうち3,遊びにあきて気がついて
おいとまごいも そこそこに
帰る途中の楽しみは
みやげにもらった玉手箱4,帰って見れば こはいかに
元居た家も村も無く
みちに行きあう人々は
顔も知らない者ばかり5,心細さに蓋取れば
あけて悔しき玉手箱
中からぱっと白けむり
たちまち太郎はおじいさん出典:尋常小学唱歌「浦島太郎」 作詞:乙骨三郎 1911
ストーリーをさらに要約すると
①浦島が子どもにいじめられた亀を助ける
②お礼に竜宮城に連れてもらう
③竜宮城で色々と楽しむ
④竜宮城のお土産に「開けてはいけない玉手箱」をもらう
⑤故郷に帰ることができず途方に暮れる
⑥玉手箱を開けたらおじいさんになってしまった
というお話です。
現代版 浦島太郎 考察
この昔ばなし、あまりいい終わり方じゃなかったよね。
明治政府が教科書に載せたということは、その時代の子どもに何か伝えたいものがあったからよね。
結局、何だったのかしら・・・?
これは①~②で「他人を助けると良いことがあるよ」という、仏教的な因果応報思想が盛り込まれているんだ。
亀だけど・・・まぁ、いじめられていた動物を助けることは善い行いよね。善い行いは報われるということよね。
うん。これを因果応報というんだ。因果応報にはもう一つ意味があって
「悪い行いをしたら罰が与えられる」という意味も含められているんだ。
それが③~⑤にかけて「遊び呆けていたら故郷に帰れなくなる」とか④~⑥にかけて「約束を破って玉手箱を開けたらおじいさんになってしまった」
ということなんだ。
なるほど・・・。物語のところどころが因果応報思想なんだね。
でも・・・。物語全体を通してみたら、
「亀を助けたのに、故郷に帰れないうえにおじいさんになってしまった」というお話よね。因果応報に矛盾するわ。
こんなことなら、亀なんか助けなきゃ良かったってなっちゃう・・・。
そうなんだ。この矛盾については駒沢大学文学部国文学科が毎年刊行している駒澤國文の中の
「除外のストラテジー(※)」で論じられているんだ。
※第32巻79ページ、1995年
???
えっと・・・その・・・・
御伽草子の浦島太郎に対して明治政府が教育のために無理矢理、因果応報論を盛り込んだから、物語に矛盾ができたってことで・・・
えっ・・・つまり、御伽草子の浦島太郎は因果応報の話じゃなかったってこと??
うん。
御伽草子版 浦島太郎
ストーリー
明治時代に改変される前に語り継がれていた浦島太郎は実はこんな話だったんだよ。
①24~25歳の漁師(浦島太郎)が亀を吊り上げたが、「1万年生きると言われる亀をここで殺めてしまうのは気の毒だ」と思い海へ還しました。
②その後、浦島は同じ猟場で舟に乗った美女を見かけます。その美女は「船旅の途中、船が転覆してしまって、私だけが助かった。一人ぼっちで寂しい。ここで私たちが出会ったのは何かのご縁です。どうか、一緒に私の故郷に来てくださいませんか」と浦島に頼み込みました。
③浦島は美女一緒に故郷を目指す船旅を始め、美女の故郷に辿り着きました。
④美女の故郷は口では説明できないほどの豪華な屋敷でありました。
⑤美女は「あなたに出会えたのは運命です。どうか結婚してここで暮らしていただけないでしょうか?」とお願いし、二人は夫婦となりました。
⑥美女の暮らす屋敷は「竜宮城」といいます。竜宮城には東西南北4方の戸があり、
東の戸を開ければ春の景色、南の戸を開ければ夏の景色、西の戸を開ければ秋の景色、北の戸を開ければ冬の景色が一面に広がって、それはもう楽しくて仕方のない世界でした。
⑦竜宮城で3年暮らしたのち、浦島は自分の故郷の事が気になり、一旦帰りたいと申し出ます。
⑧美女は「ここで離れてしまったら次はいつ葵できるか分かりません。」とさめざめと泣き、「実は私はあなたに助けてもらった亀だったのです」とカミングアウトします。
⑨どうしても故郷に帰りたいならばと美女は手土産に玉手箱を渡しました。「決して開けてはなりません」という忠告と共に。
⑩浦島が自らの故郷に帰ると、全く違う景色が広がっていました。近くにいたおじいさんに「浦島の家はどこですか?」と聞いたところ、
「その家は700年前の家だったはずだが・・・」と言われ、途方に暮れました。
⑪途方に暮れた末、もう失うものは何もないと考えた浦島は「開けてはならない玉手箱」を開けてしまいました。
⑫玉手箱を開けると浦島はみるみる歳をとってしまい、鶴になってしまいました。
⑬鶴になった浦島は竜宮城に戻り、乙姫に「どういうことだ。」と問いかけます。
⑭乙姫は竜宮城での3年は実はあなたのいる世界における700年に相当するのです。この玉手箱にはその700年が詰め込まれていたのです。
玉手箱を開けたあなたは700年分年老いてしまう。人間なら死んでしまいます。だから鶴に化身するようにしたのです。と説明します。
⑮鶴になった浦島と亀である乙姫は、残りの300年間を共に愛し合い過ごしました。
御伽草子版 浦島太郎 考察
なんだか・・・こう、話のところどころに強引な感じはするけど・・・。
うん。この話、実は鶴と亀の恋物語だったんだよ。
現代でも恋物語は割と強引なところあるよね。「一目惚れした」とか「たった一つの言葉や行為に胸を打たれた」とか。
浦島太郎が恋物語だったと解せることができれば、それと似たようなものかなって思えるようになるよ。
恋物語・・?しかもこれ、現代の話と全然違うじゃない。特に結末!鶴になったって・・・・。
うん。ちょっと話が複雑になってきたから、現代と違うところをまとめてみたよ。
①について、亀が悪童にいじめられていたという話はなかった。
②~③について、亀に乗って移動したわけでもなく、竜宮城が海の中に存在するという話もなかった。
⑤について、単に竜宮城で遊んでいたわけではなく、浦島と乙姫は夫婦になっていた。
⑧について、乙姫の正体は亀だった。
⑪について、玉手箱を開けたら、おじいさんになった後、鶴になった。
⑮について、浦島(鶴)は余生を乙姫(亀)と共に過ごした。
室町時代に御伽草子に書かれた浦島太郎のことを、駒沢大学の論文では、「異類婚姻譚」と呼んでいるんだ。
一方で、明治時代に書かれた浦島太郎のことを「善悪応報譚」と呼んでいるんだ。
いるいこんいんたん??
異類婚姻譚は人間と違った種類の存在と人間とが婚姻するお話の事。一番わかりやすいのは・・・鶴の恩返しかな。
鶴の恩返し??あれって、正真正銘人間同士の老夫婦が鶴を助けて、機織りをする話じゃなかったっけ?
あ、この話も現代になって塗り替えられた話(※)なんだ。
※元々は老夫婦ではなく若い男が鶴を助け、人間に化けた鶴と結婚する「鶴女房」のお話でした。助けられた鶴が恩返しをするという面から「動物報恩譚」というカテゴリーにも当てはまります。
あ、あ・・・。わけわかんなくなってきた。
浦島太郎も鶴の恩返しもそうなんだけど、元々、恋愛や結婚の話だったんだよ。
だから・・・その・・・ね。あまり子どもには見せるべきでない・・・その・・・
(・・・あぁ、そういうこと。大人の話がカットされたってことなのね。)
(恥ずかしがってるディープルがかわいいからちょっと黙って見てようかな。)
・・・・大人の話がカットされたんだ。
なるほどねぇ~。元々ラブストーリーだったものが、子ども向けに改変されたのね。
それを専門チックに言うと、「異類婚姻譚が教育の名目により善悪報恩譚に変えられてしまった。」と言えるのね。
うん。さっきの「除外のストラテジー」という論文にはこういう記述があるんだ。
「御伽草子」時代にはまだ亀と乙姫の同一性が明確で異類婚姻譚としての骨格がはっきりしていたのが、その後の伝承過程で亀が乙姫から切り離されて「竜宮城お抱えのハイヤーの運転手の位置まで身を落とさざるを得なくなった」という変形が行われたらしいが、この点-「浦島」の流布系が<報恩>の内実がはっきりしない話になっているということ―が、「お伽草子」への「浦島」採用のポイントだったのではないだろうか
出典:高田友並著 「除外のストラテジー―太宰治『御伽草紙』論への一視角」,『駒澤國文』 第32巻79頁,1995
明治時代に行われた改変を凄く皮肉ってるわね~。浦島太郎の亀って御伽草子では本当に重要なポジションだったし、鶴亀夫婦エンドの伏線を冒頭でしっかり敷いていたのに、明治時代にメチャクチャにされちゃったってことか・・・。
うん。この話を異類婚姻譚だと解せるとファンタジックで楽しくて。
・・・こう、なんていうのかな・・・恋物語っていいよね。
うん!今も昔もね、思春期から人間は「理想の恋がしたい」っていう欲望があって、その理想形に近いラブストーリーを作ったり、作られたものを自分に照らし合わせて楽しむのが大好きだから。そこは変わってないのね~。
元々、日本書紀も御伽草子も本質的には月9のドラマと変わらないってことなのね~。
月9のドラマを子どもの教育に活用しようとすりゃ、改変もあって、改変もあればそこから矛盾が生まれるって言うのが
室町時代の浦島太郎と明治時代以降の浦島太郎のギャップであるという解釈が正しいのかしらね。
多分・・・そうだと思うよ。
あ!子どもが勉強させられる国語はハッキリ言ってつまらないけれど、古典に魅了されて駒大で論文を書くような人がいるって言うのは、そういうことだったのね!
善い行いをすれば報いがあるとか、悪い行いをすれば罰が下るとか、そんな話よりも、ラブストーリーの方が面白いもんね!
うん。原点に近づけば近づくほど、学問が面白くなるって言うのは文系も理系も同じなんじゃないかなって思うよ。
あ、ごめんね。大学に行ったことのない僕がこんな偉そうなこと言って・・・。
いやいや!ワタシもそう思うし、ストーク→も似たようなこと言ってたよ!
小中学校で習う理科は子ども向けに作られているから論理的に破綻している部分も多い。なぜならその論理の原点は大抵微分方程式に帰着するからや。
大学へ行き、一通り勉強したのち、再度小中学校の理科の教科書を読むと実に面白い。破綻している点と点が線で結びつくような感覚たい。
ってね!
異類婚姻譚について
恋物語のなかでも、動物や動物の化身が人間と結婚する話はなかなかマニアックだよね。
確かにね。月9のドラマにもなかなかそんなマニアックな話はない・・・
ないけど・・・。
けど?
手塚治虫先生の火の鳥とかW3とか。ロボットや宇宙人と人間との恋のお話はあるね。結婚まではしないけど。
W3なんかは宇宙人と人間と解釈していいし、動物と人間とも解釈してもいいから二重に面白いというか・・・?
あっ!おおかみこども!!
あっ!確かに!漫画やアニメだったらあるもんだね!
・・・あと、考えてみたら、人間以外の存在と人間との恋物語って、人間同士の恋では表現しにくいファンタジックさがあるよね。
化身だったり、正体に関する二人の秘密だったり・・・狼として生きるか人間として生きるかの葛藤なんて人間同士の恋では創造し得ないでしょ?
それこそ浦島太郎なんかは「鶴は千年亀は萬年」に由来した1,000年に渡る恋の話だし・・・。?
うん。竜宮城の3年が現実世界の700年とかね。
ちょっと特殊相対性理論を絡めているところとかね。
そういうファンタジーなものが好きだって人は今も昔も一定数いるんだろうね。だから室町時代に浦島太郎が書かれるし、昭和時代には火の鳥という漫画が有名になるし。現代でもおおかみこどもは話題になるし。
あ、あと羽衣伝説。これも異類婚姻譚だよ。当時は能楽作品も作られるほど支持されていたんだ。
あと、昔は互いに好きになったら結ばれることが約束されていなくて、家柄とか社会的地位とかに縛られた作り物の恋愛をさせられた人もいただろうから
「結ばれない恋とか禁断の恋」というテーマは当時の庶民の心を上手く投影していて、その代表格の一つに異類婚姻譚があって、当時はよりメジャーなカテゴリーだったのかもしれないわね。
(とはいえ、「恋愛対象に高卒なんてありえない」という母さんの学歴偏重思考が鬱陶しいと考えるワタシの姿もあったりするから、現代でもなんだかんだで恋愛結婚は本人の思うようにいかないところがあるのかもしれないのよね・・・。)
(あれ?ちょっと待てよ・・・。元々人間だった浦島が動物である鶴に化け、鶴亀動物同士永きに渡り結ばれるって話・・・なんかデジャヴ感がある。
確か、おおかみこどもじゃなくて、2011年頃のアニメ作品で、元々人間だった高校生の男子が、ある動物を好きになって結ばれないことに苦しんだ結果、動物に化けて動物同士永きに渡り結ばれる話があったような・・・・。)
まとめ
本記事では室町時代の御伽草子にある浦島太郎と私たちが学校で習ってきた、明治時代に作られた浦島太郎とは大きなギャップがあるということをテーマにして掘り下げ、
浦島太郎の因果応報の話は明治時代に勝手に作られたものであって、本来は鶴と亀の恋物語であった。
専門チックに言えば「元々異類婚姻譚の話だったものが教育という大義名分のもと、善悪応報譚に塗り替えられた」という結論に至りました。
浦島太郎も鶴の恩返しも羽衣伝説も元々大人が作った話です。大人が作る物語と言えばやっぱり子どもには不適切なエピソードがあるわけで、そこも含めて物語を見直すと、今も昔も人間の考えることは変わらないなぁ・・・。という感想に至った。という内容の記事でした。
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