ヘッピリ虫(ミイデラゴミムシ)の高温の屁について

資料請求番号:TS73

摂氏100℃のオナラをする虫の体内で行われている化学反応を熱力学的に解析

「摂氏100℃のオナラをする虫がいる」というトリビアがありました。トリビアの泉番組内では

敵から刺激を受けると、過酸化水素とヒドロキノンが酵素の働きによって急激な酸化還元反応を起こす。この反応によって熱と共にベンゾキノンと水に生成されて、それが高温の水蒸気となって出る。

と説明されていました。本記事では、この説明を化学熱力学的に定量的に評価し、理論上摂氏何度までオナラの温度が上がるのかを計算してみました。
そして、そのオナラを人間のオナラのスケールでやるとどのくらいの威力になるのかを考えてみました。

化学反応式と反応熱

ストーク

ヒドロキノンと過酸化水素が酸化還元反応するとしたら、ヒドロキノンは還元剤、過酸化水素は酸化剤になる。つまり、反応式にするとこうだろうな。

ストーク

反応式が与えられたら、反応熱が計算できるよな。

シママ

うん。反応を構成する物質の生成エンタルピーの差を出せばいいんでしょ?

シママ

でも、どうやって生成エンタルピーがわかるのかしら?

ストーク

NISTデータベースって言って、アメリカ国立標準技術研究所が出しているデータベースがあるたい。
そこにはあらゆる物質の物性値がリファレンス(出典)と共に掲載されている。ヒドロキノンもベンゾキノンも水も過酸化水素も生成エンタルピーがそこから取得できる。
NISTによると、各物質の生成エンタルピーは以下の通りだ。

生成エンタルピーの出典
NISTデータベース

ストーク

全て状態は液体か固体、標準状態だ。過酸化水素の場合、気体のエンタルピーと蒸発エンタルピーがあったから、そこから液体のエンタルピーを計算した。

シママ

これで反応エンタルピーが計算できるのね。

シママ

1molあたりの反応で202.75kJの熱が出る・・・か。

ストーク

イマイチその熱量がピンと来てないだろ?

シママ

うん。

ストーク

じゃあ、次は標準状態、つまり25℃の水がその熱を受けたらどうなるかを考えてみるたい。

ヘッピリ虫のオナラの最高温度

ストーク

まず、生成物として水2molあたり202.75kJの発熱ということになるから、2で割って水1molあたりで考えよう。
つまり「101.4kJの熱は1molの水を何度まで上昇させることができるか?」という問題になる。

ストーク

水の比熱は?

シママ

4.2

ストーク

単位。

シママ

えっと、1gの水を1℃だけ上げるのに必要な熱量だから・・・・
4.2 J・g-1・K-1

ストーク

まぁ、正確には18℃において4.184 J・g-1・K-1だがな。
比熱って、温度によって変化するもんなんやが、100℃まで一定としよう。有効桁数も3桁でいいや。
それで、これをモルあたりに換算すると4.18×18.0で75.2 J・mol-1・K-1
さっきの反応によって出た101kJの熱で水は何℃まで上がることになる?

シママ

えっと・・・75.2 J・mol-1・K-1は0.0752 kJ・mol-1・K-1でしょ?
そしたらΔT=101/0.0752=1343℃・・・・って本当!!?

ストーク

ああ、本当だよ。計算は間違ってはいない。ただ、実際に1343℃も温度が上がるわけないけどな。

シママ

あ、そうか。100℃になって蒸発するのね。

ストーク

せや。それで蒸発に必要な熱・・・蒸発潜熱と言うが、これは水の場合44.0kJ/mol。つまり、
25℃の水から100℃の水蒸気にするのに必要なエネルギーは0.0752×75+44.0=49.64kJ/molということになる。

シママ

ま・・・まだエネルギー余るのね・・・。

ストーク

それで気体になってもなお温度は上がり続けるとして、気体になってからの温度変化をxとするならば、
水蒸気の比熱が0.0336 kJ・mol-1・K-1だから、
0.0336x = 101-50でx = 1518℃で、100℃からカウントしているから1618℃

シママ

ええっ!!?1618℃!? ホントなの!?
これがホントならなんで実際は約100℃なの?

ストーク

ああ。これは本当に理論上の計算で、反応熱が丸ごと水に移動した場合の計算だから非常に高く温度が出る。
実際にはミリ秒スケールで反応して101kJ/molの熱が発生する間に放熱が起こったり、
水以外の物質に熱が移動したり、
気体は熱拡散率が高いから噴射したら外気に晒されて急冷されたりして約100℃になっているんだ。
中には132℃を記録したという論文もある。
ミイデラゴミムシのやってる反応の速度がな~分かればもっと正確に計算できるんだがな~。

シママ

そうなのね・・・。それだけ凄い熱を発生させる仕組みが備わってるヘッピリ虫って凄いわ・・・。

ストーク

そもそも体内にヒドロキノンと過酸化水素を貯蔵できる仕組みがある時点ですごか。
それに、放熱は自分自身の体にも行われるはずやし、100℃超えの気体をかなりの流速出して放出しとるやろ?ケツの穴火傷しないのがすごか。
甲虫ってすごかね。

人間のオナラに置き換えると・・・・

シママ

これ、人間のに置き換えるとどれだけ凄いのかしら・・・?

ストーク

それを知るには人間が1回あたりに何Lの屁を出すのかを知らなければいけない。
wikipediaによると

平均的には大人は普通一日に合計0.5 – 1.5Lの量の屁を5回から20回に亘り放出する。
出典: Wikipedia 屁

ストーク

らしい。まぁ、適当に1Lの屁を10回で出すとして、1回あたり0.1L。
自分で実験して算出したいなら、深めの風呂入って思いっきり屁こいて、その泡が上がってくるまでの時間から計算できるが、やるか?

シママ

やらない!!

ストーク

ここで、比較対象とする現象をどうするか考えたんやが・・・。
202.75kJの反応熱って、反応時間が遅ければ大したことないたい。ジワリジワリと外部に熱を捨てていくからな。温かくなったな~くらいになっちゃうたい。
一瞬で反応するから威力になる。爆発ていうものはそういうものたい。一瞬で大量の熱量を排出するから破壊力がある。
ホントは反応時間も含めて、身の回りの爆発現象と比較したいんやが・・・。
ミイデラゴミムシの放屁のVTRを見る限りミリ秒単位かそれ以下の一瞬で反応を完結させているから、同じように一瞬で反応が完結する身近な現象として、
水素+酸素で水が生成する反応と比較して考えてみるたい。

シママ

懐かしい!試験管に火をつけたらボフッ!ってなるやつでしょ?

ストーク

せやせや!

ストーク

この反応はH2(g) + 1/2 O2(g) → H2O(l)で反応エンタルピーは286kJ/mol。

ストーク

そして、あのボフッ!で発生する熱量を計算する。一般的な試験管は内径15mm, 高さ105mmやから、試験管の容積は
V=7.5*7.5*π*105*10-3=18mL。つまり、水素12mL, 酸素6mLで水(水蒸気)18mLが生成すると考える。これをモル数に直すと気体は22.4L/molやから、
n=18[mL]/22.4[L/mol]=0.803mmol。286[kJ/mol]*0.803[mmol]=229.6 J。229.6 Jが瞬時に発生してあのボフッ!たい。

シママ

うん・・・。

ストーク

次に、最初に描いた化学反応式

ストーク

コイツが起こって、水蒸気が人間の1回の屁の体積100mLが出るとする。そのモル数は100[mL]/22.4[L/mol] = 4.46 mmol。
反応熱は水1molあたり101kJやったから、101[kJ/mol]*4.46[mmol]=450.9J。人間がミイデラゴミムシ同様の反応で屁をこくと、一瞬で450.9Jが放出される。

シママ

つまり、試験管の水素爆発2個分のエネルギーってこと?

ストーク

せや。

シママ

大きいんだか、小さいんだか・・・。

ストーク

爆発するってことで考えたらまぁ、確かに小さいかもしれんが、これは放屁たい。生き物の体の中で起こっていることと考えりゃ、大きいたいね。

シママ

確かに・・・。

ストーク

天気のいい日に朝起きて思いっきり屁こくの気持ちいいやろ?

シママ

わかる~!

シママ

って何言わせんのよ!!

ストーク

それやる度にあのボフッ!2個分爆発が起こるって考えりゃ、服すぐに燃やすし、布団も燃やすやろうな。

シママ

まぁね。

ストーク

それだけの武器を備えて進化してきたミイデラゴミムシってすごか。いやぁ~生き物の進化ってホンキで勉強すると面白いかもな。

まとめ

「摂氏100℃のオナラをする虫がいる」というトリビアで興味を持って、色々調べた結果、

反応熱は水1molあたり約101kJ
そしてその熱があれば水は水蒸気となり、1618℃まで上昇する。(ただし、反応時間も外部への熱移動も無視)
このオナラを人間がやったら、試験管で行われる水素爆発2個分の威力になる

ということがわかりました。トリビアがトリビアを生んだような記事になりました。

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