「いじめ」と法の問題 被害者のとるべき行動の提案

資料請求番号:DE42

学校における「いじめ」と法の問題について勉強しました

「新しい学校法務の実践と理論」という本を読みました。一般論としていじめは法的にどのように解釈されているのか、その法の教育現場における問題点は何かを学びました。
次に、上記著書に対する私の考察として、「元被害児童の立場」として法の問題点を指摘しました。次に法を活用し、守られるために被害児童・保護者は具体的にどのように対処すればよいのか、私の意見をまとめました。

今、まさにいじめられてて本当にしんどい。追い詰められてる。機会あれば自殺してしまいそうだ。という人は3.2節だけでも読んでください!!

本の紹介

書名:新しい学校法務の実践と理論(副題:教育現場と弁護士の効果的な連携のために)
著者:山口 卓男氏(弁護士)
ISBN:978-4-8178-4194-0
平成26年11月19日 初版発行

本のはしがき

専門書の「はしがき」には、たいてい著者がなぜこの本を書こうと思ったのか、どんな想いでこの本を書いたのか、自らの知識を本にどのように活用しようとしているのかが書かれています。以下、はしがきのまとめです。

現代の学校教育において、学校(教育現場)と弁護士との間で緊密な連携関係が形成されるに至っておらず、弁護士は教育現場のために十分な貢献ができていないことを問題視しています。上記問題を解決するために2点のアプローチを挙げています。
1点目は教育現場と弁護士を結ぶ制度的工夫
2点目は教育現場の実情に精通した弁護士の育成
本書は上記の問題意識の元に執筆されたものです。

本書は教育現場で問題解決にあたる教員の先生方、教育行政担当者、またこれを支援する弁護士の方々に向けて書かれています。

本書内の議論のアプローチとして実践から理論に立ち返って考察するという方法を採用しています。具体的内容として著者は次のように述べています。

本書では理論によって現場を事後的に批評するものではなく、現場から経験主義的・帰納法的に発想し、法的・理論的検証を経ながら,将来志向的に解決策を探る立場を基本とした。そのため、書名では「実践」を先に立てた。こうした成り立ちから、本書に示された問題解決の道筋や考え方は唯一のものではないし、最善の選択でもないかもしれない。また、設例の事案は、現実にあった事件そのものではなく、具体的な事象を捨象・付加したり、複数の事案を組み合わせたりして、大幅な改変を加えている。これはプライバシーへの配慮と議論の便宜のためであるが、リアリティが欠ける部分があるかもしれない。このような限界を踏まえても、なお、本書が、教育現場で問題解決にあたる教員の先生方や教育行政担当者、また、これを支援する弁護士の方々にとってわずかでもご参考になる点があれば幸いである。

本書の形式

学校における諸問題(体罰、いじめ、保護者との対立、給食費未納問題、学校内のケガ)などのモデルケースを半ページ~1ページ程度の長さにまとめ、それに対して10ページ程度の解説を与えています。解説ページでは法の理論に則り、当事者(保護者・教員など)がどのように対応すべきだったかをまとめています。このようなモデルケースを40個程度挙げて本書が成り立っています。

著書に対する感想

論理的に筋道を立てながら、論文に近い形で書かれておりますが、専門外の私にとってもわかりやすいまとめ方をされていると思います。短くまとめられたモデルケースを読んでから、専門的な内容の解釈に入るのでイメージがしやすかったです。

いじめに対する法的対応(80ページ~)

本書80ページから述べられている「いじめ問題」について解析した事例を取り上げ、それを本記事内で紹介し、その解説をまとめました。

いじめ問題 設例(引用)

設例:
MはQ私立Q2中学校の校長です。二学期が始まって間もないある日、生徒指導主任Tと1年1組の担任教諭Sが、クラス内で発生したいじめの件で相談があると校長室を訪れました。二学期になって休みがちになったAの家庭訪問をしたところ、保護者Gから「クラスで無視され、話す人がいないため学校に行きたくない」と言っている旨を告げられたようです。これを受けて、SとTが調査を行いましたが、確かに、Aは友達がおらず孤立気味ではあるものの、その背景に、特にいじめの兆候は見当たらなかったとのことです。
M校長は、生徒指導主事T、担当教諭Sと共にAの保護者F・Gと面談を行い、この調査結果を伝えました。しかし、保護者は学校側の説明に納得せず、いじめ防止対策推進法や文部科学省の調査等を持ち出し、「いじめられている側がいじめと感じればそれはいじめである。学校側はいじめ防止の義務を怠っており、訴訟も辞さない」と、強い調子で抗議してきました。
問:
Mは、Aの問題に対応するにあたり、いじめの定義やとらえ方についてどのように考えたらよいでしょうか
キーワード:
教育課題としてのいじめ/法的問題としてのいじめ/いじめ防止対策推進法/いじめの類型化/徹底調査1+3

設例の解説まとめ

まず、いじめの定義として以下のような文言が充てられています。

「個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする」

これを「主観主義」と呼んでいます。この主観主義には以下の問題が残されています。

・生徒児童のいじめに対する感受性は多様であり、場合によっては、心身の発達過程におけるありふれた日常的な争い(いわゆるケンカ)もいじめと定義されるとするならば、その問題に対して学校側の安全配慮義務・安全保持義務違反を追及しなければならない。
・上記のありふれた争いと対象児童の生命、身体または財産に重大な被害が生じるような(直ちに警察に通報することが必要な事象)を同じ「いじめ」として主観主義を適用している。

著者は「いじめ」は実務上、少なくとも以下の3類型に分けて考えるべきと述べています。

・第一ステップ:子供が成長する過程で一般的にみられる日常的衝突(ケンカやからかい)著者はこれを「誰もが通過儀礼的に経験するエピソード」と述べている。このようなエピソードは「子供の社会化」において重要でプロセスである。
・第二ステップ:子供同士の衝突が、社会化のプロセスを超えた激しいものとなり、教育上見過ごせないレベルにまでエスカレートした場合(教育課題としてのいじめ)
・第三ステップ:いじめの対象となっている児童・生徒の法的に保護されるべき権利・利益を侵害する程度に至った場合

第三ステップに至った場合、被害を受けている生徒は法的救済を求めることが可能なのです。この場合、学校側に対していじめ解消に向けて積極的かつ効果的な指導を行うよう求める権利、いじめに加担している生徒、またその保護者に対していじめを中止するよう求める権利、あるいは法務省人権擁護局などの外部機関に対して救済を求める権利などが認められることになります。さらにいじめが過酷な場合は刑事責任が追及されることもあります。
つまり、第三ステップに至った場合は、法による救済があるというわけです。
他の著書に書かれていたが、被害児童とその保護者は加害児童に対して出席停止・クラス変更などを要求する権利もあるそうです。

ただし、第三ステップに至った場合のいじめは「犯罪」であり、教育機関で処理すべき問題ではないと述べられています。教育はあくまで「未成熟な存在である子どもを成熟した市民社会への構成員として変化させていく営み」と定義するならば、市民社会において許容されるはずのない行為を校内で処理することは不合理であると述べられています。

以上、
・いじめは「主観主義」であること
・ありふれた日常的な争いから財産・生命への加害/被害までもいじめと一括りにとりあつかっていること
・著者は、いじめは3つのステップに則って対処すべきと主張していること
・第三ステップに至った場合、被害者は法的救済を受けることができること
・第三ステップに至った場合、教育機関の責任の範囲を超えてしまっていること
が述べられていました。

「元被害児童の立場」としての考察

いじめの定義「主観主義」について

主観主義は「子供がいじめられていると訴えればいじめになる」というものでした。

ディープル

え・・これって、もし子どもがいじめに耐えられなくなって自殺しちゃった場合、いじめがあったかどうかなんていくらでも好きなように解釈できるんじゃないの・・・?

著書には著されておりませんでしたが、当該児童生徒が亡くなってしまった場合、いじめの解釈の方法の自由度が極めて大きくなりすぎる、いわゆる「死人に口なし」状態になるという問題があるのではないかと感じました。そのため、滋賀県大津市、岩手県矢巾町の事件でも「調査の結果、自殺のいじめの因果関係はなかった」と言えてしまうのだと思いました。

ディープル

あと、自分がいじめられているなんて、先生に言ったらもっといじめられるんじゃないかと思う。怖くて言えない。

法律の立場でいう「訴え」というのは、子供の世界でいう「チクり」です。先生にチクったと更にいじめられるのが怖いというのは当然の心理でしょう。しかし、訴えなければ法的救済を受けることはできません。この問題は「虐待の親告罪問題」に近いものと思われます。

ディープル

法で守られているといわれているけど、そんなこと知らなかった。とにかく我慢しなくちゃいけないものだと思ってたよ。

子どもははっきり言って無知です。その上、学習能力も発展途上です。20代後半の大人が半日かけて専門書を読み、もう半日かけてまとめ上げるような内容で、決してこの法の知識は片手間で手に入るものではありません。
心身ともに疲弊した小中学生に法学の専門書を与え、「これを読んで自分で何とかしてね」と言っているのが現状です。これは子どもたちにとってあまりにも酷ではないでしょうか?
また、子供の視野は極めて狭いです。頼れるのは先生と親だけだと思っています。しかも先生までいじめに加担していたり、問題解決に積極的でなかったり、「いじめられたらいじめ返せばいいじゃん」と平気で言う親だったりした場合、子どもは誰にも頼れなくなります。だから「死ぬ」しか選択肢が残らなくなってしまい、命を落としてしまうのだと思います。

被害児童とその保護者はどうすればよいのか?

本書は教育に携わる人や弁護士に宛てて書かれた本なので、具体的に被害者はどうすればよいのかは残念ながら書かれていませんでした。しかし、これまで得た知識から、「あのとき、こうすればよかったんだ!!」と思うところがあったので、これをまとめていきたいと思います。

今、まさにいじめられてて本当にしんどい。追い詰められてる。機会あれば自殺してしまいそうだ。という人はここだけでも読んでください!!

ディープル

それで・・結局、僕はどうすればよかったの?今、いじめられている子はどうすればいいの?

もし自分が当時、このような法の仕組みを知っていたら、今の知識の状態のまま子ども時代にタイムリップしてランドセルを背負うことになったらこうします。
・いじめに関する証拠を残す。
どんないじめを受けたか、明文化する。(日時も併せて)人権侵害の言葉を録音する。殴られたらすぐに病院に行き、整形外科医師の診断書を手に入れる。もう明日にも学校にいけない、精神的につらいと感じたら精神科医師の診断書を手に入れる。できれば目撃者として、第三者(頼れる友達)に目撃情報提供をお願いする。
・先生→学年主任→校長→警察の優先順位で状況を説明し、救済を求める。

といった感じでしょうか。「明文化・録音+医師の診断書」により○○は××よりひどいいじめ(生命・財産を奪うレベルのいじめ)を受け、その結果、「○○は身体に傷害を受けており、また精神的に生命が奪われようとしている事実」が明確になり、刑事事件として成立させることができると思うのです。
ただし、先述の通り、教育関係者の責任の範囲は第二ステップまでというところを意識しておくべきでしょう。教育関係者といっても神様ではありませんから、ある程度の免責は許されるべきです。第三ステップ以降は警察の範囲です。その違いを明確にして救済を求める相手を選択するとよいでしょう。
上記内容を被害児童の親が手続きをとるのが望ましいでしょう。上記を行うのは子どもには負担が大きすぎます。親としては子どもにいじめの証拠を作らせる(ボイスレコーダーを持たせる)、おかしいなと思ったら話を聞く。あまりにも深刻だったら(体に痣があったり、どこか腫れていたり)病院へ連れていき、診断書を請求するといった対応をしてあげればよいのではないかと思います。しっかり機能した家族ならできるはずです。

ディープル

・・・ということは、死んでしまうということは一番解決から遠ざける選択肢なんだね。

そうなんです。死んでしまったら事実を立証できなくなってしまうのです。ボイスレコーダーを持たせることも病院に連れていくこともできないのです。現在のところ、いじめの世界は「死人に口なし」です。物理的に証拠を出すことができないから「いじめと自殺の因果関係はなし」と平気で言えるのです。そんなの、あまりにも悲しすぎます。

ディープル

いじめが非親告罪になるのが一番いいよね

殴られた、叩かれた、精神的に追い詰められた。この事実があったその瞬間から責任を問える体制が必要だと私は思います。この部分は虐待に近いものがありますね。

おわりに

専門書を読むにつれ、この世の中の理不尽さを感じました。いじめの「主観主義」はあまりにも子どもにとって酷です。結局、「自分たちで解決してね。」と言っているようなものだと思いました。しかも、思考・判断能力が発展途上の子どもに対して。
教育委員会など、いわゆる有識者というのは、この法の知識を大学で学んできているのです。そのうえで、自分の身を守ることに専念するのです。でもこれは当たり前といっちゃ当たり前でしょう。自分の立場が一番なのは誰でも同じはずです。責めることではありません。「子供の立場に立って考えてないじゃないか!!」と怒鳴りつけたって仕方ないのです。その怒鳴っている人、あなたの仕事はなくなってもいいのですか?ということです。
それならば、被害者がやるべきことはただ一つ。「自分も法について学ぶこと」です。そのうえで判断し、行動すれば少しは良い方向へ行くのではないかと思います。これを親がやってくれればその子供はある程度は救われるかもしれません。

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