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砂にあることをすると、まるで水のような触り心地になる
ゲームエンジニアの展示会CEDEC2017に行って参りました!
そこでこんなものを発見。
今回はこの水のように振る舞う砂の不思議について、書いていきたいと思います。
流動層
すごーいおもしろーい!本当にお湯みたい!
目隠しされて、「これお湯だから。」って言われて手を突っ込んだら本当にお湯と勘違いしそうだね!!
でも、これなんで砂がお湯みたいになるんだろ・・・?
これは・・・流動層だな。
りゅうどうそう??
砂を水のようにする仕組み
流動層とは?
砂をまるで水のように振る舞わせるその仕組みというのは、「流動層」の技術を使ったものです。
流動層とはWikipediaではこのように説明されています。
上向きに流体を噴出させることによって、固体粒子を流体中に懸濁浮遊させた状態をいう。粒子に働く流体の力と重力がつり合い、全体が均一な流体のように挙動する。
ここで、もう一度動画を見てください。砂がマグマや沸騰したお湯のようにポコポコ湧き上がっているのが見れると思います。これは、砂の下から気体を送り込んでいるのです。そして、それが止んだ瞬間、砂は元の砂に戻りました。
砂の下から気体を送り込んでいたから、砂がまるで水のように振る舞ったんだな。
普通の砂の状態
動画最後にある、ごく普通の砂の状態というのは、固体で、常に重力から押されている状態になります。
粒子一つ一つが重力から押さえつけられて動けない(束縛した状態という)ので、そこに手を入れても、固い・重い・砂の奥深くまで手を入れるのに力が要るということになります。
縄に縛り付けられたものを動かすのは大変だよな。この砂たちは重力という名の縄に縛り付けられている。
だから、動けない。動かしにくい。
砂にガスを吹き込むと・・・
重力に押さえつけられた砂は固くて手を入れるのにも力が要る。では、重力がなくなった砂はどうでしょう?砂を縛り付けるものがなくなるわけですから、砂粒一つ一つ自由に運動できるようになりますね。
地球上で重力をなくすなど、できるわけないので(できる方法が一つだけあります。飛行機を使います。)、重力と同じ力を逆向きに加えて仮想的に重力を失くします。
その逆向きの力が下から吹き上げる、ガスの力です。
重力が仮想的になくなった砂は自由に動き回れますから、そこに手を加えるとまるでお湯に手を入れているような感覚になるのです。
この、砂が自由に動き回れる状態のことを「砂が流動している」といい、流動している物質の層のことを「流動層」というのです。
重力の束縛から解放されるから、砂は動きやすい、動かしやすい。だからまるで水のように振る舞うんだな。
氷(固体)と水(液体)
流動層の現象を、氷と水の違いを例に説明してみます。
氷に手を入れることはできないけど、水なら手を入れることができる。この当たり前のことはなぜ起こるのでしょう?
これを考えるにはもっとミクロな世界、分子の動きについて考えないといけません。
固体は分子一つ一つがガッチリと固められている状態。分子は何に固められているかというと、分子間力、水素結合など分子間に働く力に束縛されています。
液体は分子一つ一つの束縛から解放されて、自由に動ける状態。自由に動けるから、入った手に応じて分子が運動できます。だから、手を入れることができますね。
上の砂のガスの力がある状態とない状態の違いに似てるよな。
砂粒一つ一つが分子だって考えたら、ガスがない状態は固体、ガスのある状態は液体に近いと言えそうです。
専門的な目で見た流動層
流動層研究の意味
流動層について展示があるということは、流動層について研究している人がいるという意味よね。
流動層の研究って、なんの役に立つのかしら??
おっ、目の付け所がいいな。工学的観点から考えりゃ、ものづくりをしていく上で流動層のような状態が非常に都合がいいから、流動層の研究が進んでるんだよな。
今やもう、「流動層工学」として、一つの学問が成立している。
例えば化学反応について考えてみましょう。ものすごく遅い反応をどうにかして速くしたい。こういったときに触媒を使います。使う触媒は固体であることが好まれます。液体の触媒は、製品ができてから分離するのが大変だからです。
反応させたい物質が気体や液体で、触媒が固体だった場合。そのまま混ぜると何が起こるでしょうか?
何が起こるって・・・触媒が気体や液体の中に沈んで積もるだけなんじゃ・・・?
じゃあ、容器の中に触媒と反応させたいモノを入れました。触媒は沈んで積もってます。どこで反応している?
固体と反応物が接触している場所??
そこだけだな?じゃあ、改めて聞くが、流動層ってどうゆう状態?
あっ!固体と気体がメチャクチャに入り混じってる状態!層の中のどこででも反応できる!
そう!それで反応速度が劇的に速くなるんだ。反応速度が速いと早くモノが作れるから儲かるよな!
流動層の状態をつくるということは、ものづくりの観点、さらに言うと反応工学的観点から考えて、非常に都合がよいことがお分かりいただけたでしょうか?
では、次に工学者が考えるのは、
・粒子の大きさが決まっているとして、また、反応させたい流体が決まっているとして、その流体をどのくらいの速度で送り込んだら、流動層の状態ができるのか?
・逆に、達成できる流体の速度が決まっている(今あるポンプを使いたい)として、粒子をどのくらい小さくすれば、流動層の状態ができるのか(前処理工程の設計)?
ということになります。ここで、「理想とする流動層の状態の状態を得たい」、すなわち「流動層を制御したい」
という考えになってくるのです。
流動層を制御する
流動層は、粒子に対して流す流体流速・流体粘度・粒子の密度によって、3つの物理的状態があるといわれています。
出典:森 滋勝, 流動層工学における最近の進歩, 鉄と鋼 第6号, 1990年, pp.818
動画の最初の状態は気系流動層、最後の状態は固定層です。
固定層では流動状態がないので、流動層として機能しない。
気系流動層は粒子が激しく跳ね上がるため、粒子を回収する装置(サイクロン)を作って設置したり、反応容器に粒子が付着したりして粒子をそぎ落としたりする必要があり、色々と面倒。
したがって液系流動層の状態が良いとされています。
流動層の状態には
①反応物、流体など物質による因子
②層に通す流速による因子
が絡み合ってくるので、流動層を制御するには①と②を数値で表現できるようにならなければなりません。それが
①アルキメデス数 Ar
②レイノルズ数 Re
です。
dを粒子の直径、ρfを流体(fluid)の密度、ρpを粒子(particle)の密度、gを重力、μを流体の粘度とした場合、Arは
u0を層流入時の流体流速とした場合、Reは
で表されます。工場を設計するための実験を行う際、流動層が流動層として機能するためのArやReを測定し、その情報をもとに実機を設計するのです。
(最も簡単に言ってしまえば・・・・ですが。)
流動状態をシミュレーションする
あるきめです・・・?数とか、れいのるず・・・?数で、層内の状態を数値化できることは分かったけど、層内の流体の流れとか、粒子の運動は正確には追えないよね?
層の中の物質が均一に同じように運動しているとは限らないよね?
そうなんだ。だから、粒子一つ一つの振る舞いを追うという研究もされている。東北大学理学研究科の博士論文※を少し読んでみた。
それによると、以下の方程式で粒子と流体の動きを追うという研究をしたみたいだ。
※市來 健吾, 流体流動層の粒子ダイナミクス, 東北大学大学院理学研究科物理学専攻 博士論文, 1996年
あ・・・ワタシ・・・無理。
まぁまぁ。式の意味だけ見ておこうぜ。
①は粒子の運動方程式です。mは粒子の質量、uは粒子の速度ベクトル。そしたらuを時間で微分すれば加速度になるわけですから、左辺はmaになるわけです。そして右辺は粒子にかかる力(流体から受ける力、重力、衝突力)を合計しています。何ら高校生の物理で習うF = maと変わらないわけですね。
そして、②はナビエ・ストークス方程式、③は連続の式です。②と③については解説記事がございます。②と③を解けばある位置における流体の速度ベクトルと圧力がわかります。
①~③を連立して解くことにより、粒子の運動、流体の運動の両方を解析することができるのです。
[blogcard url=”https://shimaphoto03.com/science/ns-equation/”]
[blogcard url=”https://shimaphoto03.com/science/vector-div-image/”]
これらって、コンピュータ使わないと解けないんだよな。近年のコンピュータの発展のおかげで、ようやく普通のパソコンでもこの式が解けるようになった。でも、正確に詳細に解きたかったらスーパーコンピュータ(スパコン)を使わなければならない。
コンピュータって、何もゲームのためだけに発展しているわけじゃないのね~。ゲームするんなら、もうこれ以上いいコンピュータって要らないんじゃないかな?なんて思っていたけど、こういうことをする科学者がいるから、コンピュータの発展にゴールはないのね。
まとめ
今回は、CEDEC2017で展示されていた「水のような感触の砂」の謎に迫ってみました。これは流動層工学の技術をつかっているもので、流動層工学の観点から「なぜ砂がお湯のように振る舞うのか?」を説明しました。さらにものづくりの観点から見た流動層工学の意味と、流動層を使ってモノづくりをしていくために、工学者(エンジニア)はどのようにして流動層を数値的に理解し、制御しているのかをお話ししました。
最後に、流動層の流れの様子を詳細に見るために、大学でやられていることを説明しました。
出典の博士論文は20年以上前のものですので、今、いくつかの運動方程式を使って流動層の様子を具体的に知るという仕事は工学研究科の仕事になっています。実際のモノづくりの世界でも、数値シミュレーションを巧みに使用し、流動層の設計をしています。
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