研究開発職と生産技術職の違い~化学工学の問題例で比較し、実務視点から解説~





研究開発職と生産技術職の違い~化学工学の問題例で比較し、実務視点から解説~



資料請求番号:TS52 DE72

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若手研究開発職がエンジニアの2大職種の違いを化学工学の具体例の例題を通じて説明してみる

大学の工学部を卒業して会社に所属した場合、「研究開発職」または「生産技術職」のお仕事を与えられることが多いのですが、
しばらく研究開発職に従事して、研究開発と生産技術の「問題への取り組み方の違い」というのが少し見えてきたので、
本資料に書き残してみたいと思います。

研究開発と生産技術

研究開発と生産技術。工学部や工学研究科(呼び方は大学によって様々ですが)卒業修了見込みの学生が就職活動するときに

・どちらをやってみたいか
・そしてその理由は

という問いにぶつかることがあるかと思います。

そこで、学生たちは企業が配る会社案内とか新卒採用ページなどを読んで自己分析も踏まえながらESを書いたり面接に臨んだりするわけです(よね?)。

本資料では、会社案内とか新卒採用ページに「よく書かれていること」は全く違う視点から、研究開発と生産技術の違いを説明してみたいと思います。

どんな視点で違い考察するか?

とある、比較的簡単な問題を提示し、

研究開発者の場合はどのように取り組むことを求められているのか、
生産技術者の場合はどのように取り組むことを求められているのか

の違いを説明してみたいと思います。

問題

幅88cm, 奥行48cm,高さ53cmの立方体の容器がある。ここにお湯を入れたい。
バルブは2種類用意されており、「72℃の熱水が出るバルブ」と「21℃の冷水が出るバルブ」がある。
これら2つのバルブを使用して、42℃のお湯を液位70%になるように入れるためのバルブ操作手順を考えよ。

解答例

ちょっとそれっぽく、理系の問題っぽく書いたわけですが、これはただの「お風呂沸かし」問題です。

研究開発・生産技術共通の視点

「足りていない情報を補完する」
まず問題に取り組むにあたり、足りていない情報があるので、それを補完するところから始まります。
入試や単位取得のための定期試験では、解くための情報を全て与えてもらっているわけですが、研究開発(大学の研究室含)や生産技術では

・なんの情報が足りてなくて
・どのような考え方で補完するのか

を考えなければなりません。この時点で経験値によって差が出てきます。

今回、補完しなければならない情報を挙げてみました。
①バルブ開度と流量の関係
②何を求めて操作手順を決定するか
③水の物性値(比熱と密度)
の3点です。ここでは①と②を決めておきましょう。③は研究開発か生産技術かによって決め方が変わってきます。

①についてですが、今回はバルブ開度が100%の時にそれぞれ以下の流量が出るとし、操作時はバルブ開度100%で固定することにします。
また、水のバルブを開放しているとき、お湯のバルブは閉める。その逆も成立するとします。

②についてですが、①の操作条件を成立させるとするならば「お湯を出している時間」と「水を出している時間」を求めればよいことが分かります。
この二つの量が分かれば、42℃のお湯を作るのに必要な72℃の熱水と21℃の冷水の質量(∝体積∝液位)がわかり、その質量が持つ熱量の収支を成立させれば、問題が解けることになります。

これで、この問題は以下のようなモデル図に置き換えることができました。

以後、研究開発と生産技術とではそれぞれ別々の視点でこの問題に取り組むことになると考えます。

研究開発者の視点

研究開発では、問題を解くことそのものが仕事になりますから、ゆっくり時間をかけて問題に取り組むことができます。

しかし、2つの温度の水を混合するなどと言った簡単な問題ではなく、
・物質が特殊な性質をもつもの(高分子) だったり、
・混合しながら他の操作(反応、蒸留、抽出など)を行ったり、
・水と水ではなく、水と別の物質 だったり、
・その物質は疎水性で油水2相を形成したり
問題は複雑です。

問題を解くことで価値のある仕事をしなければならないわけですから、当然です。

研究開発では、より多くの問題に対応できるように、物事を一般化して方程式を立てて問題を解いていきます。
今回の問題では、以下のような2つの連立方程式を立てます。

ここで、それぞれの文字は以下の意味を持ちます。


※0.37 mは0.57 m(=57 cm)の70%

この2つの連立方程式を解いて熱水を出している時間tHと冷水を出している時間tCを決定しよう。

と言うのが、研究開発者に求められる問題の取り組み方なのではないでしょうか。

問題を支配する現象を全て洗い出して方程式化し、その方程式を解くのです。このとき、偏微分方程式のような解くだけでも難しい方程式になることもしばしばあります。
今回の問題では「熱水と冷水を混ぜるだけ」の問題なので物質収支と熱収支だけなわけですが、
反応がかかわるとするならば、反応速度式
蒸留がかかわるとするならば、気液平衡計算(カンタンなものでいえばラウールの法則)
などが「解くべき方程式」に加えられます。

粘度の高い高分子を取り扱うのであれば攪拌強度も考慮しなければいけません(=粘度の温度依存性の考慮)し、高分子には高分子特有の現象(=ダイラタンシー・チキソトロピー)がありますし、攪拌しても温度場は均一にならないことから、運動量保存則も連立して解かなければならない、
などと考えなければなりません。

この時、いかに一般化されていて、多くの物質や多くの現象についても適用できる式が立てられるかが鍵となってきます。

「水については計算できても、物質が変わったら、他の現象を加味するなら、この方程式は使えなくなる」というのは美しくない。ということです。

生産技術者の視点

生産技術者の仕事は忙しく、一つの問題に時間をかけることはできません。生産を安定させることが仕事の中心になってくるためです。
生産工程は一つの単位操作(反応、輸送、蒸留など)で成立するわけがなく、複数の単位操作のパッケージになっています。したがって、一つの単位操作に対して、
連立方程式を立てて、それをコンピュータで解いて・・・などと悠長なことは言っていられません。

しかし、理論に基づいた考察は必要です。そうでなければ、何を拠り所として作業すればいいのか分からなくなってしまいます。
この問題については
「お湯を半分くらい入れて、後はちょうどいい感じになるまで水を入れ続ければいいんでしょ?」
となってはならない、ということです。それでは光熱水費(=ユーティリティ費)が無駄になりますね。

ここで、生産技術のエンジニアは、現場で電卓を使って、パパッと簡単に問題を解かなければなりません。この問題の場合は

①体積0.1563立米なら、水の重さは156.3kgだね。

②それなら「42℃の水156.3kg」を作るために21℃の水x[kg]を使うとしたらこの方程式が成立して

③これを解けば64.34kgの熱水と91.96kgの冷水を混合すればよいことが分かるから

④流量で割り返して熱水を流す時間と冷水を流す時間を求めればいいね。

⑤じゃあ、そのような作業手順書を作りましょうか。

というようになってきます。

ここには「比熱・密度の温度依存性なし」など様々な仮定が含まれていて、他の現象を加味したいときに応用ができませんが、
計算がスマホの電卓でパパッとできてしまうことに意味があります。

生産技術者の場合、今目の前にある現象に対して、
いかにして余分な計算を省いて、簡単な方程式にして素早く問題を解決できるか
が鍵になってきます。

方程式の美しさを求めて計算するだけで何時間も費やしてしまう、というのは美しくない。と言うことです。

まとめ

以上が、若手研究開発職の考える、研究開発者と生産技術者の問題の取り組み方の違いです。
まだ社会人になって間もないわけですから、この資料には考え方の間違いとか筋違いが多くあるかと思います。
数年後、これを見た自分が「ああ、レベル低いなぁ」と思えればよいのかな、と思います。これが成長だと思っています。

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