組織と仕事 / 伝達

説明しても伝わらない理由:情報の非対称性

結論

説明しても伝わらないのは、話し方が悪いからだけではありません。 多くの場合は、相手と自分が持っている情報の量と前提が違うことが原因です。

こちらには経緯が見えている。 でも相手には、その経緯も、判断の背景も、何を前提にしているかも見えていない。 この状態で結論だけ渡すと、説明したつもりでも、相手には飛んだ話に聞こえやすくなります。

だから大事なのは、情報を増やすことより、 相手に欠けている前提を埋めることです。 何を知っていて、何を知らないか。 そこを揃えるだけで、説明はかなり通りやすくなります。

相談:ちゃんと説明したのに、なぜか伝わらない

丁寧に説明した。必要なことも言った。
それなのに、相手の反応がずれる。意図と違う受け取り方をされる。
そんな場面は、仕事の中でよく起きます。

こういうとき、つい「もっと分かりやすく話さないと」と考えがちです。
でも実際には、説明のうまさ以前に、前提の共有が足りていないことがあります。

ストーク

ちゃんと説明したつもりなのに、
「いや、そういう意味じゃなくて」ってなることあるたいね。
あれ、地味にへこむばい。

シママ

あるのよ。
でもそれ、説明不足というより、
互いに持ってる情報が違いすぎることが多いの。

ストーク

情報が違う?
同じ話題について話しよるのに?

シママ

同じ話題でも、
こっちは経緯も背景も見えてる。
でも相手には、そこが丸ごと抜けてることがあるのよ。

ストーク

あー。
こっちは途中を全部見た上で話しよるけん、
結論だけ言っても通じる気がしてしまうわけたいね。

シママ

そういうこと。
映画を最後まで見た人が、まだ冒頭しか見てない人に
ラストの感想だけ話してるみたいなものなのよ。

解説:伝わらなさは、知っている量の差で起きる

情報の非対称性とは、同じテーマを扱っていても、
片方だけが多くの情報を持っている状態です。
仕事ではこれが普通に起きます。

ずっと案件を追ってきた人と、途中から入った人。
現場を見ている人と、数字だけ見ている人。
毎日触っている人と、たまに報告だけ受ける人。
こうした違いがある以上、同じ言葉でも見えている景色はかなり違います。

1)説明する側は、前提を省略しやすい

何度も考えたこと、何度も見たことは、自分の中で当たり前になります。
すると説明するときも、その前提を飛ばしてしまいやすくなります。

たとえば、
「今回はこの案で進めます」
「優先順位を変えます」
「まずここを直しましょう」
こうした言い方は、話す側には自然でも、相手には
「なぜそうなるのか」が抜けた状態で届くことがあります。

2)相手は、欠けた前提を自分で補ってしまう

人は説明の穴があると、そこを自分の知識や経験で埋めます。
その補い方がこちらと違うと、「聞き間違い」ではないのに受け取りがずれます。

つまり、伝わらないのは相手が不注意だからとも限りません。
むしろ、足りない情報をまじめに補った結果として、
別の意味に着地していることがあります。

シママ

相手って、分からないところを空白のままにはしにくいのよ。
だから自分なりに意味をつないで受け取るの。

ストーク

たしかに。
伝わらんというより、別の筋でちゃんと理解されとることもあるたいね。

3)立場が違うと、同じ情報でも重みが違う

情報の非対称性は、量の差だけではありません。
何を重要だと見ているかも、立場で変わります。

現場は作業の負荷や例外対応が気になる。
管理側は納期や全体最適が気になる。
顧客対応の人は説明のしやすさが気になる。
この違いがあると、同じ説明を聞いても、引っかかる場所が違います。

4)伝えるとは、情報を足すことではなく、相手の地図に合わせること

伝わらないとき、つい情報量を増やしたくなります。
でも、細かく話せば通るとは限りません。
大事なのは、相手がどこまで地図を持っているかを見ることです。

まず背景が必要なのか。
先に結論が必要なのか。
なぜそれが重要かを言った方がよいのか。
相手が欠いている前提に合わせて入口を変える。
その方が、ただ詳しく話すより伝わりやすくなります。

1) 相手はこの話の経緯をどこまで知っているか

2) こちらが当然だと思っている前提は何か

3) 相手は何をいちばん気にする立場か

4) 先に必要なのは結論か、背景か、判断理由か

テンプレ:前提をそろえてから説明する

説明がずれやすいときは、最初に前提を置くだけでかなり変わります。
結論の前に、相手が持っていない情報を短く補うのがコツです。

【前提をそろえる4行】

1)まず背景を一言で置く
2)次に結論を言う
3)その理由を1つか2つだけ添える
4)相手が気にしそうな点を先回りして補う

例:
「前提として、今週は人手が薄いです」
「その上で、この案件は来週に回します」
「理由は、納期影響が小さいのと、今は別件の方が顧客影響が大きいからです」
「品質確認は先に済ませるので、後ろ倒しでも崩れません」

ストーク

これなら、
いきなり結論だけ投げるより、だいぶ受け取りやすかね。

シママ

そうなのよ。
説明って、たくさん話すことじゃなくて、
相手が足りない前提を埋めることなの。

落とし穴

よくある落とし穴は、「詳しく説明すれば伝わる」と考えてしまうことです。
情報量を増やしても、相手の前提とずれていれば、むしろ要点が見えにくくなることがあります。

逆に、「相手が察してくれるはず」と思うのも危険です。
情報の非対称性がある場面では、察するための材料そのものが相手にないことがあります。
だから必要なのは、丁寧さより先に、前提の差を見積もることです。

締め

シママ

説明しても伝わらないときって、
話し方より先に、見えてる景色が違うことが多いのよ。

ストーク

よか整理たい。
伝えるって、正しく話すことやなくて、相手の地図に道を足すことやね。

シママ

そうそう。
こっちの地図だけ広げても、相手の現在地が分からないと迷子のままなのよ。