物質はどれくらい「流れ」によって運ばれているのか。
その強さを、拡散との比較で一つの数にしたものがシャーウッド数です。
結論
シャーウッド数は「対流物質移動と分子拡散の比」。
シャーウッド数(Sherwood number)は、流体中の対流による物質移動が、分子拡散だけの場合に比べてどれだけ強いかを表す無次元数です。
定義は $Sh=\frac{k_c L}{D}$ で、$k_c$ は物質移動係数、$L$ は代表長さ、$D$ は拡散係数です。
$Sh$ が大きいほど、流れによって濃度境界層が薄くなり、物質が表面へ、あるいは表面から、より効率よく運ばれていることを意味します。
つまりシャーウッド数は、熱伝達でいうヌセルト数の“物質移動版”です。熱の代わりに濃度、熱伝導率の代わりに拡散係数を見ている、と捉えると整理しやすくなります。
あるある
式は見たことがあるのに、何を比べている数か曖昧。
物質移動を学ぶと、レイノルズ数、シュミット数と一緒にシャーウッド数が出てきます。ただ、相関式の中で突然現れるため、「結局これは何の数なのか」がぼやけやすいところです。
ヌセルト数までは分かるのよ。でもシャーウッド数になると、急に「物質移動の係数」って感じになって、頭の中で像がぼやけるの。
そこは熱伝達と同じ型で見るとよかたい。ヌセルト数が「対流と熱伝導の比」なら、シャーウッド数は「対流と分子拡散の比」たい。
ああ、熱の代わりに濃度を見ているのね。そう考えるとかなり分かりやすい。
本文
Sh数は「流れが拡散をどれだけ強化しているか」を表す。
1) 物質移動の2つの仕組み
流体中で成分が移動する仕組みは、大きく2つあります。一つは、濃度差によって分子がじわじわ広がる分子拡散です。もう一つは、流体そのものの移動によって成分がまとめて運ばれる対流です。
分子拡散だけなら、物質は比較的ゆっくり移動します。しかし流れが加わると、表面近くの濃度境界層が薄くなり、表面と主流の間でより強い物質移動が起こります。シャーウッド数は、この強化の度合いを表した数です。
物質移動の見方
分子拡散:濃度差によってじわじわ広がる
対流:流れによってまとめて運ばれる
Sh数は、この2つのうち「対流がどれだけ拡散を上回っているか」を見る数です。
2) シャーウッド数の定義
シャーウッド数は $Sh=\frac{k_c L}{D}$ と定義されます。
- $k_c$:物質移動係数
- $L$:代表長さ
- $D$:拡散係数
ここで $k_c$ は、表面と主流の濃度差に対して、どれだけの物質流束が生じるかをまとめて表した係数です。$D$ は分子拡散のしやすさを表す物性値です。
3) 導出の考え方:対流物質移動と分子拡散を比べる
物質移動の流束は、対流側では $N_A=k_c(C_s-C_\infty)$ と書けます。一方、分子拡散はフィックの法則により $N_A=-D\frac{dC}{dy}$ です。
ここで濃度勾配の大きさをおおよそ $(C_s-C_\infty)/L$ と見積もると、分子拡散の流束は $N_A\sim D\frac{C_s-C_\infty}{L}$ です。
したがって、対流物質移動と分子拡散の比は $\frac{k_c(C_s-C_\infty)}{D(C_s-C_\infty)/L}=\frac{k_c L}{D}=Sh$ となります。
つまりシャーウッド数は、実際の物質移動が、分子拡散だけに比べて何倍強くなっているかを表しています。
導出の芯
対流物質移動:$N_A=k_c\Delta C$
分子拡散:$N_A\sim D\Delta C/L$
その比:$Sh=\frac{k_cL}{D}$
ヌセルト数の「熱伝達係数・熱伝導率」を、「物質移動係数・拡散係数」に置き換えた形と見ると整理しやすいです。
なるほど。物質移動係数って急に出てくる印象だったけど、実際には「拡散だけならこれくらい、流れがあるとこれくらい」って比で見ればいいのね。
そうたい。Sh数は相関式の記号やなくて、「流れが拡散をどれだけ助けとるか」を物理的に見せる数たい。
4) Sh数が大きいと何が起こるか
$Sh$ が小さいときは、物質移動が分子拡散にかなり依存しています。境界層は厚く、表面近くの濃度差がなかなか解消されません。
逆に $Sh$ が大きいと、流れによって表面近くの濃度境界層が薄く保たれます。すると、表面から主流へ、あるいは主流から表面へ、成分が効率よく移動します。
乾燥、吸収、蒸発、触媒表面への供給、液滴や粒子からの溶出など、多くの単位操作ではこの効果が重要です。
5) 計算例
ある成分の物質移動について、物質移動係数 $k_c=2.0\times10^{-3}\ \mathrm{m/s}$、代表長さ $L=0.05\ \mathrm{m}$、拡散係数 $D=1.0\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}$ とします。
このときシャーウッド数は $Sh=\frac{k_cL}{D}=\frac{2.0\times10^{-3}\times0.05}{1.0\times10^{-5}}=10$ です。
これは、対流を含む実際の物質移動が、分子拡散だけを基準に見た場合の代表的なスケールより10倍程度強くなっている、と読むことができます。
計算例の読み方
$Sh=10$ → 拡散だけでなく、流れによる強化がはっきり効いている
$Sh\gg1$ → 対流の寄与がかなり大きい
数値の意味は流れの種類にも依存しますが、「1よりかなり大きいなら対流強化が効いている」という見方が基本です。
6) レイノルズ数・シュミット数との関係
シャーウッド数は単独で現れるより、レイノルズ数 $Re$ とシュミット数 $Sc$ と一緒に相関式として現れることが多いです。
代表的には $Sh=CRe^mSc^n$ のような形です。
ここで $Re$ は流れの強さ、$Sc=\frac{\nu}{D}$ は運動量拡散と物質拡散の比を表します。つまり、流れがどれだけ境界層を薄くしやすいか、そしてその流体で成分がどれだけ拡散しやすいか、この2つが一緒になって物質移動が決まります。
役割分担
$Re$:流れがどれだけ強いか
$Sc$:速度境界層に対して濃度境界層がどう振る舞うか
$Sh$:結果として物質移動がどれだけ強いか
7) よくあるつまずき
つまずき1:Sh数をただの相関式の記号だと思う
本質は、対流物質移動と分子拡散の比です。
つまずき2:熱伝達との対応を見ない
Nu数と対応づけると、Sh数の意味はかなり見えやすくなります。
つまずき3:代表長さを固定だと思う
平板、粒子、円管など、問題設定ごとに代表長さは変わります。
テンプレ
Sh数を理解するときの最小の型。
シャーウッド数の理解テンプレ
(1)物質移動には分子拡散と対流がある
(2)その比として $Sh=\frac{k_cL}{D}$ が定義される
(3)$Sh$ が大きいほど、流れによる移動強化が大きい
(4)$Re$ と $Sc$ と組み合わせて相関式で使う
落とし穴
Sh数を「係数を無次元化しただけ」と思う。
落とし穴は、シャーウッド数を「物質移動係数を無次元化しただけの記号」と見てしまうことです。
本質は、流れがあることで濃度境界層がどう変わり、分子拡散だけでは届かない速さで成分が運ばれるようになるか、という物理にあります。
つまり Sh数は、結果のラベルではなく、物質移動がなぜ強くなるかを読むための比です。
締め
Sh数は、流れが拡散をどれだけ助けるかを示す。
今日の芯は、Sh数が「対流と分子拡散の比」ってところたい。流れがあることで、成分の運ばれ方がどれだけ強化されるかを見とる。
分かった。Nu数の物質移動版ってだけじゃなくて、「濃度境界層がどれだけ削られているか」を読む数なのね。
そうたい。流れがなかったら、みんな拡散だけで地道に動くけんね。Sh数は「その地道さを、流れがどれだけ手伝ったか」を見とるわけたい。