見ていた人は、ちゃんと見ている

見ていた人は、ちゃんと見ている

ディープルが「……じゃあ、先に戻るね」と小さく言って席を外したあと、部屋にはしばらく静かな余韻が残っていた。

その空気を、わざわざ崩すような足音がひとつ近づいてくる。

ストーク

いやあ、今のはなかなかだったな。

シマナ

……いたの?

ストーク

いたぞ。別に盗み聞きしてたわけじゃない。普通に通りかかったら、お前がずいぶん丁寧にディープルを扱ってたからな。つい気になってしまってな。

シマナ

……!

シマナ

丁寧にって、何よ。普通でしょう。あの子が言葉を探してるときは、急かさないほうがいいだけだよ。

ストーク

ほう。「急かさないほうがいい」ねえ。ずいぶん熱のこもった普通だな。俺にはあんな声のやわらかさ、三割も向けてくれんだろう。

シマナ

そりゃあなたは、放っておいても勝手にしゃべるじゃない。比較対象がおかしいのよ。

ストーク

なるほどな。つまり、ディープルは特別に繊細だから、特別に大事に扱っている、と。

シマナ

……そういう雑なまとめ方しないでくれる?

ストーク

雑かなあ。俺はかなり精密に観測したつもりだが。目を離せない感じとか、「そのまま話して」って待つ感じとか、あと最後のあれだな。あれはもう、ほぼ——

シマナ

ストーク。

ストーク

おお、こわいこわい。そこまで怒るってことは、図星に近いんじゃないか?

シマナ

怒ってるのは、あなたが人の大事なところを面白がってつつくからだよ。あの子は、ああやって言葉にするまでにも時間がいるの。そこを軽く扱われるの、私、嫌なのよ。

ストーク

……へえ。

シマナ

何よ。

ストーク

いや。お前、思ったよりずっと本気で守りにいくんだなと思ってな。

シマナ

……別に、守るとかじゃないわよ。ただ、見落としたくないだけ。

ストーク

はいはい。見落としたくない、ねえ。便利な言い換えだな。

シマナ

ほんっとにあなたは……! からかうなら、その軽い口ごと廊下に置いてきてくれない?

ストーク

悪い悪い。だが安心しろ、今のやり取りを本人にそのまま伝えたりはせん。そんなことをしたら、お前が本気で飛んできそうだからな。

シマナ

飛ぶわよ、それくらい。

ストーク

だろうな。

ストーク

まあ、なんだ。あいつはたぶん、お前みたいに待てるやつがいると助かるんだろう。そこは、わりと本気でそう思うぞ。

シマナ

……あなた、そういうことを急に真顔で言うの、ずるいのよ。

ストーク

お前がいい顔で怒るから、ついな。

シマナ

もう知らない。次の決裁、判子の向き、ちょっとだけ斜めにして返すからね。

ストーク

それはパワハラかな?だがまあ、その顔が見られたなら収穫としては十分か。

シマナ

もう早く帰りなさい。上越新幹線の本数はそんなにないんでしょ?

ストーク

北陸でもええ。

シマナ

黙って帰れ!

コメントする