「そんなつもりじゃない」は、向けた痛みまで消してはくれません。だから、ときには怒ることが必要になります。

軽いまま続けられると、もう軽く返せなくなる

「そこまでなら、逆になんで付き合ってないの?」

ファビーの問いのあと、会話はいったん止まりました。止まっただけで、終わりにはなりませんでした。ディープルの中で引っかかったものが、そのまま残っていたからです。

日を改めるほど大きな出来事ではないはずでした。でも、今ここで流したら、また同じ形で積もる。その感じだけは、もうはっきりしていました。

我慢してきたことが、とうとう言葉になる

ディープル

……そういうの、軽く聞かれるの、ほんとにやめてほしい。

ファビー

え。そんなに? いや、ほんとに不思議だっただけなんだけど。そんな嫌なこと聞いたつもりなかったよ。

ディープル

今日のそれだけじゃないよ。前から何回も、そういうのやめてって言ってた。

ファビー

え、でもそれって、そんな本気の意味だったの? ちょっと嫌そうにしてるな、くらいだと思ってた。ていうか、毎回そんな大ごとみたいに言われても——

ディープル

大ごとにしたくなくて、ずっと小さく言ってたんだよ。

ディープル

それなのに、毎回そのまま続いた。メモ帳のことも、評価のことも、シママのことも。僕が嫌がっても、すぐ「そんなつもりじゃない」で戻るから、結局またこっちが飲み込むしかなかった。

ファビー

でも、そんなふうに言われたら、こっちだって何も言えないじゃん。普通に喋ってただけで、そんなに傷ついてたとか急に出されても困るよ。

ディープル

急じゃない。僕の中では全然急じゃない。ずっと前から、普通の顔で刺される感じがしてた。

ファビー

刺すって……そんな大げさな。

ディープル

ほら、またそういうふうに返す。僕が嫌だったって言ってるのに、すぐ大げさとか考えすぎとか、受け取り方の問題みたいにされるの、ずっとしんどかった。

ファビー

だって、実際そうじゃない? 私そこまで考えて言ってないし。そんな深読みされるなら、もう何も話せなくなるよ。

ディープル

深読みじゃないよ。僕はただ、向けられてるものを受け取ってただけだよ。理由の分からない苛立ちみたいなものがずっと来てた。なんでそんな言い方になるのか分からないまま、毎回こっちだけが固まるの、ほんとに怖かった。

ファビー

……苛立ち? 私が?

ディープル

うん。はっきりした悪意じゃないのは分かるよ。でも、だから余計に分からなかった。なんで僕だけこんなふうに言われるんだろうって、ずっと考えてた。

ファビー

でも、それってさ、私が悪いって決めつけてるだけじゃん。そんなふうに受け取られるなら、どうしたらいいの。私だって別に嫌いとかじゃないし、普通にしてただけなのに。

ディープル

普通にしてただけって言うけど、その普通がずっと苦しかったんだよ。僕、前にもやめてって言った。そういう言い方やめてほしいって、何回も言った。なのに、軽く流されるたびに、あ、やっぱり伝わってなかったんだって思って、また黙るしかなかった。

ファビー

……そんなに、本気で言ってたなんて思わなかった。ちょっと気にしないでよって意味かと思ってた。そんなに溜まってたなら、もっとちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよ。

ディープル

ちゃんと言うたびに、重くしないでとか、大げさにしないでって空気になるから、もうそれ以上言えなくなったんだよ。

ファビー

でも、そんなふうに責められたら、私だってしんどいよ……! そんな全部、私が毒みたいに言われたら、もうどうしたらいいか分かんないじゃん!

ディープル

僕だって分かんなかったよ。ずっと分かんなかった。なんで少しずつ嫌な感じになるのかも、なんで僕がこんなに疲れるのかも。でも、もうこれ以上、ないことにはできない。

ファビー

……じゃあ、もう何も話せないじゃん。

ディープル

今まで、僕は何回もそうだったよ。

ファビー

……。

ディープル

もう無理。これ以上、普通の顔でそういうの向けられるの、無理。僕、もうファビーと普通に話せない。

ファビー

……そんなの、急すぎるよ。

ディープル

だから、急じゃないって、何回言えばいいの……。

小さく拒まれたことを、軽く見続けると決壊する

ここで表に出たのは、ただの言い方の相性ではありませんでした。ディープルは以前から「やめてほしい」と小さく意思表示していたのに、ファビーはそれを本気の境界線として受け取れていませんでした。

ファビーにとっては、少し嫌そうにされた、少し重くされた、くらいの出来事だったのかもしれません。でもディープルにとっては、それが唯一出せた拒否のサインでした。そこが軽く扱われるたびに、「言っても伝わらない」が積もっていきます。

無知は、悪意より扱いにくいことがあります。相手が悪人ではないぶん、傷ついた側は怒りを持つこと自体をためらうからです。それでも、怒ることは必要です。そうでないと、痛みはずっと本人の内側で処理され続けてしまいます。

ファビーがずっと無自覚だったことも、この場面を重くしています。自分では普通にしていただけなのに、相手には長く消耗として残っていた。その非対称さが、とうとう隠せなくなりました。

静かだったものが、とうとう静かではなくなる

和解はしませんでした。誤解が解けたわけでも、どちらかが納得したわけでもありません。

ただ、今まで薄く積もっていたものが、もう薄いままではいられなくなっただけです。ここまで来ると、次の段階へ行かずにはいられません。