「式を覚える」より先に、保存則の“型”を固定する。
検査体積での運動量収支 → 表面の流出入と外力 → “任意体積”から局所形へ、の一本道を手で辿れるようにする。
結論
3点だけ固定:検査体積/流束/外力(体積力+表面力)。
この記事のゴールは、運動量保存を「自分の言葉で」書ける状態になることです。
ポイントは3つだけで、(1)検査体積(固定領域)で収支を書く、(2)境界を通る流出入を“流束”として書く、(3)外力を体積力と表面力に分ける。
そのうえで、最後に必ずやる操作が「任意の検査体積に対して成り立つなら、被積分が0」です。
ここが曖昧だと、導出が“呪文”に見えます。今日は呪文を終わらせます。
左辺に出てくる“加速”の正体は物質微分で、$$\frac{D\mathbf{u}}{Dt}=\frac{\partial \mathbf{u}}{\partial t}+(\mathbf{u}\cdot\nabla)\mathbf{u}$$ です。
前回の「移流演算子」が、ここでちゃんと居場所を持ちます。
あるある
“局所形”が突然出てきて、理由が分からない。
テキストでは、いきなり $\rho\,D\mathbf{u}/Dt$ のような形が現れて、「保存則だから」と済まされがちです。
でも実際には、検査体積の収支を丁寧に書けば一本道で出ます。
今日はその一本道を“自分で再現できる”ようにします。
シママ、前回は $\nabla$ を部品にしたたいね。今日は“部品の組み立て”ばやるばい。
うん…。でも正直、「局所形」って言葉が出た瞬間に置いていかれる感じがするのよ。なんで急に微分形になるの?って。
よかよか。今日は「急に」を禁止するばい。
まず検査体積で収支を書いて、次に境界の流出入を足して、最後に「任意の体積なら中身が一致する」って落とす。
その順番だけ守れば、理由が見える形で進めるたい。
分かった。順番が見えれば、怖さは減る。今日は“理由のある変形”だけでお願いね。
本文
運動量保存は「蓄積=流入出+外力」。まず言葉で書いてから式にする。
0) 役者の紹介:検査体積と境界
空間に固定した領域 $V$(検査体積)と、その境界面 $\partial V$ を考えます。
境界面には外向き単位法線ベクトル $\mathbf{n}$ が定義されます。
ここで“固定”を選ぶのは、時間微分の扱いを単純にするためです。
最小セット
密度:$\rho(\mathbf{x},t)$ 速度:$\mathbf{u}(\mathbf{x},t)$ 検査体積:$V$ 境界:$\partial V$ 法線:$\mathbf{n}$ 体積力密度:$\rho\,\mathbf{b}$ 表面力:$\mathbf{t}(\mathbf{n})$
1) まず言葉:運動量保存(検査体積)
運動量保存は、これだけです:検査体積内の運動量の増加率 = 境界を通る運動量の流入出 + 外力の総和。
“増える理由”は、境界を通って出入りするか、外から力で押されるか、の2つだけ。
検査体積内の運動量(ベクトル)は $$\int_V \rho\,\mathbf{u}\,dV$$ です。だから増加率は $$\frac{d}{dt}\int_V \rho\,\mathbf{u}\,dV$$ になります。
2) 流束:境界を通る運動量の流入出
境界面の微小面積 $dA$ を通って出ていく質量流量は $\rho(\mathbf{u}\cdot\mathbf{n})\,dA$。
そこに運動量 $\mathbf{u}$ を掛けると、運動量流束は $\rho\,\mathbf{u}(\mathbf{u}\cdot\mathbf{n})$ です。
“出ていく分はマイナス”なので、流入出項は $$-\oint_{\partial V}\rho\,\mathbf{u}(\mathbf{u}\cdot\mathbf{n})\,dA$$ になります。
符号の直感
$\mathbf{u}\cdot\mathbf{n}>0$ は外向きに流れる(出ていく)→検査体積の中身は減る→マイナス。$\mathbf{u}\cdot\mathbf{n}<0$ は流入→マイナスを掛けるとプラスになる。
3) 外力:体積力と表面力
外力は2種類に分けます。体積に比例して作用するもの(例:重力)が体積力で、密度込みで $\rho\,\mathbf{b}$ と書くことが多いです。合力は $$\int_V \rho\,\mathbf{b}\,dV$$。
もう一つは境界面に作用する力で、表面力(トラクション) $\mathbf{t}(\mathbf{n})$ と書きます。合力は $$\oint_{\partial V}\mathbf{t}(\mathbf{n})\,dA$$。
ここは次の段階で「応力テンソル」に繋がりますが、今日は “面に力が乗る” という事実だけでOKです。
4) ここまでを一行にする(運動量保存:積分形)
以上をまとめると、検査体積に対する運動量保存は $$\frac{d}{dt}\int_V \rho\,\mathbf{u}\,dV=-\oint_{\partial V}\rho\,\mathbf{u}(\mathbf{u}\cdot\mathbf{n})\,dA+\int_V \rho\,\mathbf{b}\,dV+\oint_{\partial V}\mathbf{t}(\mathbf{n})\,dA$$ です。ここまでは “文章を式にしただけ” で、難しい変形はしていません。
あ、これは分かる。蓄積=流束+外力って言葉のままね。でも、ここからどうやって“局所”になるの?
次は2段階たい。面積分を体積分に変える(発散定理)。その後「任意体積」やけん被積分が0って落とす。今日は“落とす論理”の方を先に固めるばい。
5) 「任意体積」→「被積分が0」:導出の論理を固定する
ここが導出の芯です。もし任意の体積 $V$ に対して $$\int_V f(\mathbf{x})\,dV=0$$ が成り立つなら、通常は $f(\mathbf{x})=0$(ほとんど至る所)と結論づけます。
直感はこうです:もし $f$ がある場所で正(または負)に偏っていたら、その近傍だけを小さく切り取った体積で積分が0になりません。つまり「どんな取り方でも0」なら、内部に残る“密度”は0しかあり得ない。
例題:任意の体積 $V$ に対して $\int_V (2x+1)\,dV=0$ が成り立つ、と仮定せよ。この仮定は成り立つか?
解:成り立たない。例えば $x\ge 0$ の小さな領域を取れば $2x+1>0$ なので積分は正になり、0にならない。
ポイント:体積の取り方を自由にできるなら、被積分が局所で正/負に偏ることは許されない。
6) 物質微分:加速の正体を一行で押さえる
粒子を追いかけたときの速度の時間変化が物質微分です:$$\frac{D\mathbf{u}}{Dt}=\frac{\partial \mathbf{u}}{\partial t}+(\mathbf{u}\cdot\nabla)\mathbf{u}$$ 右側は「その場で時間が変わる分(局所)」と「流れに乗って場所が変わる分(移流)」の和。前回やった移流演算子がここで効きます。
例題:速度場 $\mathbf{u}=(u_x,u_y,u_z)$ に対して、$D u_x/Dt$ を成分で書け。
解:$$\frac{D u_x}{Dt}=\frac{\partial u_x}{\partial t}+u_x\frac{\partial u_x}{\partial x}+u_y\frac{\partial u_x}{\partial y}+u_z\frac{\partial u_x}{\partial z}$$
7) よくあるつまずき(3つ以上)
つまずき1:流束項の符号が毎回ぶれる
外向き法線で $\mathbf{u}\cdot\mathbf{n}>0$ は“出ていく”→検査体積は減る→マイナス、を固定。
つまずき2:「任意体積」→「被積分が0」が曖昧
小さく切り取れるなら、局所で正/負に偏るのは許されない、という直感を一度自分で言えるようにする。
つまずき3:$\partial/\partial t$ と $D/Dt$ を混同する
$\partial/\partial t$ は“その場固定”、$D/Dt$ は“粒子を追う”。導出では両方を意識して使い分ける。
つまずき4:外力が1種類だと思ってしまう
体積力(重力など)と表面力(境界で押される/引かれる)を分ける。表面力が次の主役。
テンプレ
運動量保存を“まず言葉で”書くための型。
(1)蓄積(検査体積内)
$$\frac{d}{dt}\int_V (\text{密度})\times(\text{保存量})\,dV$$
(2)流束(境界を通る流入出)
$$-\oint_{\partial V} (\text{密度})\times(\text{保存量})\times(\mathbf{u}\cdot\mathbf{n})\,dA$$
(3)外力(体積力+表面力)
$$\int_V (\text{体積力密度})\,dV+\oint_{\partial V}(\text{表面力})\,dA$$
(4)最後に “任意体積” を使う
面積分を体積分に変えた後、任意の $V$ で成り立つ → 被積分が0。
落とし穴
局所形を“結果として覚える”。
落とし穴はこれ一つ。局所形を最初から覚えようとすることです。
本当は、検査体積の収支を書ければ一本道で出ます。
今日やったのは、導出の前半:収支式を立てて、任意体積の論理と物質微分の形を固定すること。
次は、表面力の面積分を体積分に変えるところで、一気に式が“微分形”へ寄っていきます。
締め
次は表面力を“密度”に変える。ここで式が本気になる。
今日の勝ち条件は「収支を言葉で書ける」ことたい。蓄積=流束+外力。この型が手に入ったら、もう迷子にならん。
うん、納得。“局所形は突然出る”んじゃなくて、任意体積の論理で落ちるのね。あとは面積分を体積分に変えるところを、ちゃんと理解したい。
よかね。次は“面にかかった力”ば、体積の中の式に落とすばい。ここでテンソルが出るけん、シママは逃げんでね。
逃げないって言ったでしょ…。でも、怖いのは怖いのよ。