資料請求番号:TS55
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資料請求番号:TS55精留塔の原理を基礎(気液平衡と蒸気圧の話)から説明精留塔の原理と言葉の定義精留とは蒸留の一種で、還流を伴う蒸留のことを精留と呼びます。精留塔とは単位操作としての精留を行うための装置です。化学工場では、原料を反応させたのち、何らか... 蒸気圧・気液平衡と精留塔の仕組み - らい・ぶらり |
工学部化学系の学生は「分離工学」あるいは「化学工学」などといった講義の名前で「精留塔の理論段数を求める方法」として「McCabe-Thiele法による階段作図」を学ぶと思いますが、
「理論段数を求める方法だけ知っているけど、何をしているのかよくわからない」
という学生が多いと思いますし、私もその一人でした。しかも、この講義の単位は
「与えられた情報を使って階段作図して理論段数を求める」
というマニュアルのやり方さえできてしまえば、単位が取れてしまうのです。
私の場合、別の講義名で階段作図に関する講義を合計2回受けることができたので、1回目はマニュアル通りやって単位をとったものの、2回目でその中身を少し知ることができました。それ以降も時間があれば、個人的に勉強を進めています。
本記事は現在の理解度に基づくアウトプットになります。
McCabe-Thiele作図で何をしているのか?と問われれば、一言で「連立方程式を解いている」と答えます。
McCabe-Thiele作図では、青色が「気液平衡線図」、灰色が「濃縮部操作線」、黄色が「回収部操作線」に関する方程式をグラフ上で表しており、
上記のグラフに階段状に線を引いて理論段数を求める行為が青、灰、黄で示した方程式を連立して解く行為に相当します。
今回は、各線の連立方程式を明文化し、実際にそれを解くことでMcCabe-Thiele作図を理解するということを目的としています。
相対揮発度α=2.5(ベンゼン-トルエン系)の2成分混合液を分離するために、下記に示すような理論段数8の精留塔を使用する。F = 1kmol/h, zF = 0.6, q = 1(沸点の液供給)、D = 0.611 kmol/h(留出流量)、還流比R = 2としたとき、塔の分離性能xD、xWおよび、塔内濃度分布(x1~x8, y2~y9)を求めよ。
塔の分離性能xDおよびxWおよび塔内濃度分布(x1~x8、y2~y9)を求めるということは、低沸点成分濃度に関する未知数が18個あるわけですから、低沸点成分濃度に関する、18個の方程式が必要となります。
この18個の方程式を獲得するために「気液平衡関係」と「物質収支」の考え方を使います。
気液平衡について、こちらのページで
資料請求番号:TS55精留塔の原理を基礎(気液平衡と蒸気圧の話)から説明精留塔の原理と言葉の定義精留とは蒸留の一種で、還流を伴う蒸留のことを精留と呼びます。精留塔とは単位操作としての精留を行うための装置です。化学工場では、原料を反応させたのち、何らか... 蒸気圧・気液平衡と精留塔の仕組み - らい・ぶらり |
蒸気圧の高い物質と蒸気圧の低い物質が混合していたとして、その混合物を密閉容器に入れ、温度を一定にし、気液平衡状態にしたらどうなるでしょうか?
液体部分(=液相)よりも気体部分(=気相)のほうが「蒸気圧の高い物質」の濃度が高くなっているはずです。
と説明しました。
ここで、液相と気相との間でどのくらい「蒸気圧の高い物質(=低沸点成分)」の濃度が高くなっているのか?
を定量的に示した最も簡単なモデル式(ラウール則を基本としたモデル式)が以下の通りです。
αは両成分の飽和蒸気圧の比であり、相対揮発度と呼びます。
「低沸点成分の飽和蒸気圧/高沸点成分の飽和蒸気圧」
で表されます。
各物質の飽和蒸気圧というのは、温度依存性が強いものですが、比とすることによって、温度依存性はほぼなくなります。多くの物質が絶対温度の変化に対して同じような飽和蒸気圧の変化の応答をするためです。
従って、αの値は精留塔内のどこでも使用することができます。精留塔設計の問題を解く際にはαが一定であることが当たり前のように取り扱われておりますが、このような物理化学的背景があることを知っておいた方がよいと思います。
xi, yiは精留塔各段における、液相、気相内の低沸点成分濃度です。
例えば、精留塔3段目に着目すると、3段目から上がる蒸気の低沸点成分濃度は
3段目から落ちる液体の低沸点成分濃度と表現できます。
この気液平衡関係から(x2,y2)、(x3,y3)、(x4,y4)、(x5,y5)、(x6,y6)、(x7,y7)、(x8,y8)、(xW,y9)の関係を表す8個の方程式が得られるので、18個中8個の式を獲得したことになります。
精留塔全体を領域(赤い網掛けの部分)として物質収支をとると以下の2つの式が得られます。1つ目の式は精留塔に出入りする物質すべての物質収支、2つ目の式は精留塔に出入りする物質のうち、低沸点成分の物質収支です。
②式は低沸点成分濃度の物質収支式の1つになりますから、これで18個中の1個が獲得できます。
原料供給段以上の部分を「留出部」といいます。
青い網掛けの部分で物質収支をとったとき、青い網掛けの部分からはLの流量の液とDの流量の液が出ます。これと同時にVの流量の蒸気が入ります。
V = L + D ①
Lの流量の液の低沸点成分濃度はx2であり、Dの流量の液の低沸点成分濃度はxDです。Vの流量の蒸気の低沸点成分濃度はy3ですので
Vy3 = Lx2 + DxDが成立します。②
①と②からy3 とx2 の関係式を作ります。これが留出部の操作線の式です。
同様に4段目、5段目でも物質収支をとり、y4とx3、y5とx4 の関係式を得ます。
以上で(x2,y3)、(x3,y4)、(x4,y5)の関係を得ることができますので、18個中3個の式を獲得できます。
原料供給段以下の部分を「回収部」といいます。
緑色網掛けの部分で物質収支をとったとき、緑網掛けの部分からはL’の流量の液が入ります。これと同時にV’の流量の蒸気とWの流量の液が出ます。
L’ = V’ + W ①
なお、L’の流量の液の低沸点成分濃度はx5であり、Wの流量の液の低沸点成分濃度はxWです。V’の流量の蒸気の低沸点成分濃度はy6ですので
L’x5 = V‘y6+ WxWが成立します。②
次にL‘, V‘を、LおよびVで表現します。原料供給段における物質収支から③式が得られます。これでL‘をLで表現できます。
次にV‘をVで表現します。回収部全体の収支式①と③式から
上記のようにして④式を得ることができます。
L‘およびV‘に関する③、④式を②式に代入して⑤式を得て、これをy6について解けばy6とx5 の関係式(⑥式)が得られます。これが回収部の操作線の式です。
同様に7段目、8段目、リボイラー段でも物質収支をとり、y7 とx6、y8とx7 、y9とx8の関係式を得ます。
以上で(x5,y6)、(x6,y7)、(x7,y8)、(x8,y9)の関係を得ることができますので、18個中4個の式を獲得できます。
塔頂における青い網掛けの部分では低沸点成分濃度が全て同じです。濃度y2で上がってきた蒸気をそのまま凝縮させ、濃度x1の液として還流したり、濃度xDの液の留分を得ているのです。
従って、
y2 = x1と
x1 = xDの2式が成立し、18個中2個の式を得ることができます。
今回の問題は
「塔の分離性能xD、xWおよび、塔内濃度分布(x1~x8, y2~y9)を求めよ。」
という問題でしたので、未知数は18個ということになり、それに関する16個の式を「気液平衡関係」「物質収支」から取得し、y2, x1, xDは同じ濃度であることから合計18個の式を取得することができました。
これらを連立して解けば、ある塔にある2成分混合物を投入したときに分離性能と塔内濃度分布を求めることができます。連立方程式の解法はExcelのソルバーなどが手軽です。
今回はMcCabe-Thiele作図で何をやっているのかを理解するために、「気液平衡線図」、「濃縮部操作線」、「回収部操作線」に関する方程式を定式化しました。McCabe-Thiele作図では、グラフ上で連立方程式を解いていることを説明し、その連立方程式を「気液平衡関係」と「物質収支」から示しました。
この定式化によってExcelでの取り扱いが可能になります。ASPENやProⅡの中身を理解するのにも役に立つと思います。
大学で学ぶ作図による解法はxDおよびxWが決定していて、段数を求める問題が多いと思いますが、このような問題はマクロを組んで上記の作業を反復することによって解けると思います。