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1999年7月23日、羽田空港発新千歳空港行の全日空61便が、航空機マニアの男によってハイジャックされたのをご存知でしょうか?この事件は、
・航空機が墜落することなく、乗客は全員無事に羽田に戻って来れたこと(犠牲者は当機の機長1名のみ)
・事件の起こる十数年前に日航機123便墜落という、重大な事件が起きていたこと
・事件の起こる数年前に全日空857便ハイジャック事件が起きており、これはオウム真理教信者を名乗る者の犯行だったため、こちらの方が世間の注目を大きく浴びたこと
から、世間に大きく知れ渡ることなくそのまま時が過ぎているという印象を持ちますが、大企業の悪い性質が重大な事件となって現れたものとして私は認識しております。
今回の記事では全日空61便ハイジャック事件の全貌の解説をしたのち、
大企業に総合職として勤めたことのある者としての立場から、「犯人の経歴や性格」と「大企業特有の悪い性質」の2つの観点を元に、本事件の考察を書いていきます。
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CONTENTS
まずは、全日空61便ハイジャック事件の全貌を解説していきます。
事件発生から乗客の帰還までの流れを書いていきます。
①1999年7月23日午前11時ごろ、羽田空港発新千歳空港行の全日空61便において、離陸直後に犯人が包丁を取り出し、キャビンアテンダント(以後、CA)を威嚇、コックピットへ案内するように指示
②機長はCAへ危害が被ることを防ぐために、ハイジャック発生時のマニュアル「犯人優先主義」のもと犯人のコックピットへの侵入を許可
③犯人は副操縦士をコックピットより追い出し、高度を3,000フィートまで下げることを機長へ指示
(通常の航空機の高度は30,000フィート、高度3,000フィートはヘリコプターやチャーター機等の標準高度であるため、ジャンボ旅客機である当機がその高度で巡航することは極めて危険)
④犯人は横須賀→大島へ巡航することを指示、機長はそれに従う傍ら、犯人の操縦によって墜落するのを防ぐために横田基地への自動操縦を設定
⑤犯人は機長を刺し殺し、手あたり次第、機器を操作して自動操縦を解除。この時点で、本航空機は完全に犯人の操縦によって巡航することになってしまう。
(この際、本航空機は高度200mまで下がり、墜落の危機に晒された)
⑥客室内で異常を感じ取った非番の操縦士とCAが当時のマニュアル「機長の指示最優先」を破ってコックピットへ突入。犯人を取り抑える。この際、他の乗客も協力し、ネクタイやベルトなどを使用して犯人を縛り上げる。
⑦非番の操縦士と、副操縦士の操縦によって羽田空港へ帰還。乗客は全員無事だったが、機長は数日後殉職。
あわわ!!本当に墜落の寸前まで来てしまったんだね!!
でも、何で犯人は機内に包丁を持ち込めたのだろう??
通常、包丁や爆弾など、人や航空機に危害を加えうるような危険物は、保安検査によって機内持ち込みを拒否されます。それにも関わらず、犯人が機内に包丁を持ち込めたのはなぜでしょうか?
そこには、当時の羽田空港の警備の欠陥があったのです。
犯人が包丁を機内を持ち込むまでの流れを書いていきます。
①犯人は羽田空港→伊丹空港の航空券と羽田空港→新千歳空港の航空券を同時に購入
②包丁の入ったバッグを「預け荷物」として羽田空港→伊丹空港の便に搭乗。
(預け荷物であれば、犯人は機内で包丁を触ることができないため、預け荷物として包丁を機内に持ち込むことは可能)
③再度、包丁の入ったバッグを「預け荷物」として伊丹空港→羽田空港の便に搭乗。
④羽田空港にて包丁の入ったバッグを受け取り、出口を出ることなく、職員専用階段を使用して出発ロビーに移動
(通常、預け荷物を受け取った乗客は出口へ向かうが、犯人は出口へ行かず、逆戻りして出発ロビーへ移動した)
⑤予め購入しておいた羽田空港→新千歳空港の航空券を利用して全日空61便へ搭乗
預け荷物に入った包丁を手に入れるためにわざわざ大阪まで飛んで戻ってくるのか・・・賢いなぁ・・。
当時の羽田空港では、職員専用階段を通じて預け荷物受け取り場所と出発ロビーが繋がっていたんだね。だから犯人は逆戻りして改めて搭乗することができちゃったんだ。
・犯人は犯行当時28歳。一橋大学卒業。子どもの頃から成績優秀であった。
・子どもの頃から他者とのコミュニケーションを取らず、遊びよりも勉強の方が好きな、いわゆる「ガリ勉」だった。
・子どもの頃から航空業界からの憧れを持っており、将来の夢はパイロットだった。
・航空業界への憧れは人一倍強く、羽田空港に着陸する経路30種類を覚えたり、羽田空港内の構造を全て把握したり、上記に示したような犯行手順が思いついてしまうほど、航空に関する知識は膨大であった。
犯人が犯行を起こすまでどんな人生を歩んできたのかを書いていきます。
①子どものころから成績優秀。周囲の大人の評価は「いい子」。名門・一橋大学を卒業
②複数の航空会社を志願し、入社試験をうけるものの、全て落選。やむなく鉄道会社へ入社する。
③航空業界への想いが強いゆえに仕事に身が入らず鉄道会社を2年で退社。
④退社してから、家に引きこもってフライトシミュレーターゲームに没頭する。
⑤羽田空港ビル構内図を眺めていた時にふと上記の犯行手口を思いつく。
⑥何度も羽田空港に足を運び、犯行手口が実行可能かどうかを検証。
⑦実行可能性を確信した犯人は航空会社など7社に犯行手口の実行手順と犯行可能性があることの警告、さらには防止策案まで提案するレポートを作成し、書面で提出。
(これを行うことにより、犯人は自らの知識と技能をアピール。航空業界に採用されることを狙った)
⑧手紙を受け取った会社は、対策会議をするものの、犯行の防止策案を予算・人員の理由から実行をしなかった。
(警備員を配置するだけでも、年間1億円を超える費用がかかる。などの理由があった。)
⑨さらに犯人は、電話にて防止策案を提案するとともに、航空業界への採用のお願いをするものの、拒否をされる。
⑩いつまで経っても自分の意見は採用されず、自分自身も人材として採用されない怒りから、犯行を計画。書面で提出した犯行手口の実行手順通りの犯行を行った。
自分のことを認めてくれない、自分のことを蔑ろにされた怒りから犯行に及んでしまったんだね。
自分のことを蔑ろにされる辛さは分かる・・・わかるけど・・・
犯人の頭の中にあった構想が現実のものになってしまった原因について、犯人の立場と航空関係会社の立場から考えてみます。
結論から言えば、両者とも「自分の事あるいは自社のことしか考えていない」ことから起こってしまった事件であると考えます。
つまり、両方悪いってことだね?
何が両方悪いんだよ!!会社が悪いに決まってるだろ!!犯人は現場で働いている人間ですら気づけなかった問題に気づいて、それを実証して、ご丁寧にレポートまで書き上げたんだぜ?
いや、違うよ!!アタシだったら、ハイジャックするしない以前に、絶対にこんな人と働きたくない!こんなデントツまでして自分の存在感をアピールしたい奴なんか!!
犯人は確かに働くのに必要な能力を十分に備えています。その能力とは物事をinout/outputする能力です。
働くにしてもなにをするにしても、生きているうちに大量のinput/outputできる人間が、人にたくさんの価値を与えられる人間になるでしょう。
ところが、犯人は複数の航空会社の入社試験に落選。その後も航空業界から認められませんでした。彼はその時、何を考えたのでしょうか?
・こんなにも勤勉で、膨大な知識のある自分が認められないのは航空会社が悪い
・自分の犯行手口に関する仮説と実証をまとめ、自分を認めてほしい
・航空会社にしろ、業界にしろ、母親(※)にしろ、そして、犯行時の機長にしろ、なぜ自分の言うとおりにならないんだ
※母親は包丁の入ったバッグを見つけ、自分の息子が自殺すると思い込み、バッグを隠すという行動をしている。
このようなことを考えていたのではないでしょうか?
全て自分本位なのよね!自分を認めない世の中が間違ってる!って思っているからこういう犯罪をするんでしょ??
優秀だけど、自分本位。この特徴は
・小さな頃から親の期待を背負って生きてきた
・子どものころにいじめや仲間外れなど、何らかの理由でコミュニケーションをとる機会が不足していた
・自分に確固たる信念がある
こういった人に良く見受けられます。
自分本位な人って凄く嫌い!認めてオーラが酷くて近寄りたくない!!
でも、そういう風になってしまったのは、本人のせいじゃないよ・・・
何よ!!だったら、奴をかばう気なの??
そ・・そうではないけれど・・!!
犯人は自己顕示欲も高く、自分本位。そういった性格の形成は本人ではなく、周囲の環境由来なのです。したがって、犯人が自分本位なのは仕方ないことと思います。
犯人の問題は犯人の性格そのものではなく、「性格を見直すことを怠った」ことにあるのです。
もし、複数の航空会社に落とされたときに「なぜ自分は落とされたのか?」本人が考えていたら?
もし、これまでの人生で、コミュニケーションに難がある自分に気づいて修正してみようと思っていたら?
つまりは、自分を客観視して行動できていたとしたら?
犯人の人生は明るいものとなり、この事件は起こらなかったのではないか?航空業界からも認められ、即戦力になっていたのではないか?と思うのです。
誰もがみんな性格の欠陥を持ってる。でも、それを見直そうとか、他者の視点から考えてみようとか思うことが出来たら、周りに人はやってくるんじゃないかな?
ワタシはそう思うよ。これって難しいことだけど、奴にその気持ちが少しでもあったら、この事件はなかったと思うな。
全日空、正式名称・全日本空輸株式会社は日本を代表する大企業です。他の航空会社、関連会社もそこそこの規模の会社でしょう。それなりに規模があって、経営が安定している会社というのは
現状に寄りかかっていたい
という気持ちが強く、今回の様に外野から業務に関する何らかの欠陥を指摘されても「会議をするだけ」といったその場しのぎの対策しかとらない傾向が強いです。
犯人が自分本位だっていうならば、会社だって自分本位なんじゃないか!
経営が安定していて、自分の仕事も安定している。この状態で「何か変わること」を求められても、たとえそれがどんなに緊急性の強いものであっても
・自分の仕事を増やしたくない
・安定して回している自分の仕事を変えたくない
・余計な提案で自分の責任の範囲を広げたくない
という自分本位の考えを持った人間の集団である限りは、その場しのぎになってしまうのです。
実際に事が起こらねぇと何もしねぇんだ!だらしねぇ!!
現在、飛行機から降りたら改札機をくぐる。あるいは「保安上の理由より、ここを過ぎたら戻ることはできません」といった趣旨の看板を見かけるようになったのにお気づきでしょうか?
しままるは一回、飛行機の中に上着を忘れてきて、逆戻りしようとして警備員に怒られたことあったよな!
これは実際にあったことで、上着(しかもクレジットカードの入った)を忘れたのに焦って看板を無視して(というか、見落として)逆戻りして警備員に咎められたことがあります。この行為、このハイジャック事件が起こる前だったら普通に許されていたでしょう。
飛行機を降りてから出口までは一方通行が原則で、乗客に一方通行を守らせるように改札機や看板、警備員を配置して、逆戻りによる不正な搭乗が出来ないようになっています。
これはこのハイジャック事件が起きてから、こういう措置が取られたわけだよな。実際に事が起こらないと変化をしない大企業特有のだらしなさが明るみになった事件だと俺は思うぜ。人が死ななきゃ改善しないのか・・・情けねぇ。
会社、組織、これらを構築する人たちにも「自分本位」の考えがあったからこのような事件が起きてしまったと思います。
もし、本当にハイジャック事件起こるかもしれないという危機感の強い人がいれば
もし、この改善を進めようと計画を立てる勤勉さとそれに対する責任を全うしようとする責任感と実際に改善を進める行動力が備わった人間がいれば
この事件は起こらなかったかもしれません。
勤勉さと責任感と行動力か・・・。全部備わった奴なんて、なかなかいるもんじゃねぇよなぁ~
でも、あれだけ大きな会社なんだから、そういうやつの一人や二人はいてもいいはずだぜ?そして、そういうやつが上層に上がれるような組織じゃないといけないと思うぜ?
さらには、チェルノブイリ原発事故、水俣病問題、JCO臨界事故など、ものづくりに関するあらゆる事件も上層部の人間の
・認められて上にのぼりつめたい
・毒物を垂れ流していることに気づいているけれど、その改善を行う責任を負いたくない
・作業員を危ない目に遭わせるかもしれないけど、自分の仕事を円滑に進めるために見て見ぬふり
という、自分本位な考え方によって起こっています。
今回は全日空61便ハイジャック事件を取り上げましたが、何らかの事件・事故が起これば世論は
誰が悪い?誰が悪者?誰の責任?
という議論になり、一個人、一法人に責任を押し付けがちですが、本質は異なると思います。
今回取り上げた全日空61便ハイジャック事件も犯人・航空会社関連会社の両方に問題があったから起こった事件です。他にも
・秋葉原無差別殺人事件
・酒鬼薔薇事件
・光市母子殺害事件
など、一見、犯人は何を考えてるんだ!絶対に許せない!!と思えるような事件も、犯人はもちろん許されませんが、そこで思考停止している人が多いように思えます。
犯人はなぜ、こんなことをしようと思ったのか?その思いは何に由来しているのか?など考える必要があると思います。
その根本の議論がしっかりされない限りはハイジャックや殺人はなくならないでしょう。
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