ベクトル解析というのは、その言葉の通り、ベクトルに解析学を適用したものと言えると思います。ここではベクトルの基本的な演算(内積・外積)について触れ、それに解析学(微分積分)をプラスしていきたいと思います。
発散、勾配、回転の定義だけを確認したい方はこちら
の内積は
である。まぁ、これでいいです。一応wikipediaには
線形代数学における内積はベクトル空間上で定義される非退化かつ正定置のエルミート半双線型形式のことである。二つのベクトルに対してある数(スカラー)を定める演算であるためスカラー積ともいう。
wikipedia 「内積」より
と書かれておりますが、私も正直理解できない部分があります。非退化かつ正定置のエルミート半双線型形式???
ただし、大切なことは「ベクトル」から「スカラー」になるということです。aとbはベクトルですよね。でもa・bの右辺はスカラー、つまり1つの数字なのです。
の外積は
である。外積の計算には行列式を使います。定義式を見てもわかるようにベクトル同士の外積はベクトルです。
数式など使わなくても私たちは外積を肌で感じていることがあるはずです。それは理科の授業で習う「フレミングの左手の法則」です。これを数式で表すと
F = q(v×B)
となります。電流の方向がvで磁場の方向がBで、左手と同じように
v = (vx, 0 , 0) B=(0, By, 0)を代入してv×Bを求めてみる。そしたら
となったと思う。これは「中指をxの方向へ、人差し指をyの方向へ向ければ、親指はzの方向へ向く」ということを数式で表しているのです。もちろん、電流や磁場はキッチリとxやyの方向を向いていなくても外積はできますから、いくらでもフレミングの左手の法則を数学的に表すことができます。
中学生に外積と行列式の概念はありませんから、フレミングの左手の法則という抽象的なことを教えていたわけですが、このようにキッチリと数学で表現できるのです。
ベクトル同士の内積を取るとスカラーになりました。ベクトル同士の外積をとってもベクトルのままです。このことをベクトル解析の用語で言い換えると
・内積はランクを下げる
・外積をとってもランクは変わらない
という言い方をします。ランクというのは「その変数がどれだけ情報を持っているか」といったところでしょう。
・ランク0はスカラー
・ランク1はベクトル
・ランク2はテンソル
と一般に呼ばれます。自然を支配する3次元の世界ではランク0の要素数は30で1、ランク1の要素数は31で3、ランク2の要素数は32で9になります。
スポンサーリンクベクトル解析を勉強していると「勾配」「発散」「回転」という言葉に遭遇すると思います。ここではそれぞれの定義についてお話しますが、その前に大切な記号「∇」について解説します。
∇は「ナブラ」と呼びます。これの数学的な意味は
です。∂は偏微分記号です。つまり、x方向にxで偏微分してxの成分に、y方向にyで偏微分してyの成分に、z方向にzで偏微分してzの成分にしています。お気づきかと思いますがナブラはベクトルの仲間です。i,j,kの方向がありますからね。
教科書を見ているとこんな表記も見受けられます。
これはこれで正しいのですが、方向があるということがイマイチわかりにくいですよね。数学者の方は一般化するのが仕事なので、x,y,z方向だけでなく、4次元、5次元など多次元を取り扱うことがあります。だから、このように簡略化した表記をするのだと思います。この表記なら「・・・」で省略して一般的に書くことができますし。
ただ、私が対象としたいのは自然現象であり、地球上の自然現象は基本的に3次元で起こるので、i,j,kを使う書き方を好みます。
上の式を見ると、「微分される変数」が書いてありません。偏微分というのは例えば変数Tをxで微分するときは∂T/∂xと書きますが、今回はTに相当するものはありません。あくまでナブラは演算子なのでそれだけでは計算できないのです。
4+5は計算できるけど、+だけでは計算できないのと同じです。数学の世界では私たちが日常で使っている+-×÷も演算子と呼んでいます。∇と+は仲間です。なので、∇が出てきたからと言って、嫌いにならないでください。∇を仲間にすると色々なことができるようになりますよ。
ようやく本題に入ります。「発散」の定義は以下の通りです。
あるベクトルuがあるとき、
その発散∇・uは
である。
説明としては以上ですが、以下にポイントを記しておきます。
発散の記号は∇・uです。これは「∇というベクトルとuというベクトルの内積」と考えることができます。
の内積です。冒頭で示した定義式と同じであることに気づきましたでしょうか?
単にax,ay,azが偏微分記号になっているだけのことなのです。
そして、ベクトルの発散を取るとスカラーになるということにも気づきましたでしょうか?内積と同じなので発散で得られるものはスカラーなのです。もうちょっとベクトル解析の専門チックに言えば
「勾配」の定義は以下の通りです。
あるスカラー変数Tがあったとき、その勾配は
で表される。
実は先ほどの∇の定義式
にTを書き加えただけなのです。そして、一つ気づいていただきたいのがもともとスカラーだったTが勾配をかけることによってベクトルになっているということです。つまり
「勾配は変数のランクを一つあげる」と言えるでしょう。
もちろん、勾配はベクトルにも作用させることができます。例えばベクトルE = (Ex, Ey, Ez)の勾配∇Eをとると
となります。∇の定義式にExi + Eyj +Ezkを代入してみてください。
これは基底ベクトルを2回使っていて、それぞれ3つの方向を表すので、成分が9つあります。つまりテンソルです。この表記の感じが気持ち悪いという方はこんな感じでもよろしいかと思います。
「ベクトルEは勾配を取ることでランクが一つ上がり、テンソルになった」という表現が適切かと思います。
「回転」の定義は以下の通りです。
あるベクトル変数A=(Ax, Ay, Az)があったとき、Aの回転∇×Aは
で表される。
やっていることは外積の計算と同じです。ただ単にax,ay, azが微分演算子になっただけです。ランクはどうなっているでしょうか?外積なのでベクトルはベクトルのままですね。つまり
「回転は変数のランクを変えない」
と言えます。ただし、注意しなければならないのは、外積はスカラーには定義できません。
ここでおさらいです。
・3次元空間において
ランク0(スカラー)は変数を1つ、ランク1(ベクトル)は変数を3つ、ランク2(テンソル)は変数を9つもつ。
・発散は変数のランクを1つ下げる
・勾配は変数のランクを1つ上げる
・回転は変数のランクを変えない
です。
最後にラプラシアン(∆)という演算子を紹介します。
「ラプラシアンはとある変数の勾配と発散をとる演算子で∆=∇・∇である」
ではTはスカラー定数とすれば∆Tのランクはいくつになるでしょうか?
正解はこちら∆=∇・∇ですから、まずはTの勾配を計算することになります。スカラーの勾配をとったのでランクは0から1に上がりました。
次に得たTの勾配の発散を取ります。ベクトルの発散を取ったのでランクは1から0に下がりました。こうしてランク0のTのラプラシアンが計算されました。