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スポンサーリンクヒトが物体を見たとき、そこに物体があること、およびその色までもを認識できるのはなぜでしょうか?
今回は、ヒトが物体を見るときに、ヒトの眼の中で何が起きているのか、なぜヒトは物体や色を認識することができるのかを簡単に説明したいと思います。
「ヒトの眼の構造」については、詳しく書かれたホームページがありますので、それを紹介し、本ページで深く追及しないことします。
みらい研究所様 目の構造
本ページで深く追及したいのは、網膜にある桿体細胞と錐体細胞の働きについてです。これらの細胞が「物を視る」上で重要な役割を果たすのです。
出典:堺 章著、新訂 目でみるからだのメカニズム、医学書院、新訂版第15刷、(2000)、pp.156-159
以後、ヒトの眼の働きについて考えていきたいと思いますが、その前に「そもそも物が視えるとはどういう現象なのか?」という問題について考えていきたいと思います。
ヒトが物体を視て、物体として認識するまでの間に
「光源から物体へ光が当たる→物体に当たった光が反射する→反射光がヒトの眼に届く」
「光源の光が直接ヒトの眼に届く」
という2パターンの流れがあります。いずれにせよ、ヒトの眼は物体を光の集合体として認識しているのです。
ヒトが視ることのできる光の波長は約400~700nmでその領域の光を「可視光」と呼びます。可視光線は波長ごとに色があり、例えば532nmの光を直接見たら、「その光は緑色である」と認識することができます。
出典:山中俊夫著 色彩工学の基礎 文化書房博文館 初版 (1997)
ヒトの眼に対して可視光の光が当たったとき、網膜に存在する桿体細胞と錐体細胞がその光の情報処理を行って視神経へ情報を伝えます。以後、桿体細胞と錐体細胞の働きについて詳しく説明していきます。
ヒトの眼を頭頂から見たときの断面図です。
出典:山中俊夫著 色彩工学の基礎 文化書房博文館 初版 (1997)
中心窩を0°としたとき、
錐体細胞の分布は実線で、
桿体細胞の分布は点線で
表現されています。
桿体細胞は、外部環境の光に対する感度が高いが、色覚がない。
錐体細胞は、外部環境の光に対する感度が高いが、色覚がある。
という特徴があり、各細胞が取得した情報を統合して視神経へ送っています。
私たちは、暗所へ行くと、さっきまで視えなかったものが見えるようになるということをよく経験しています。私たちはこのことを「目が慣れる」と表現しております。
この、目が慣れる現象は如何にして行われるのでしょうか?仕組みは2つあります。
1つ目は、瞳孔の絞り。暗いところでは瞳孔が大きくなり、明るいところでは瞳孔が小さくなります。これは非常にわかりやすい例です。
2つ目はロドプシンの働き。ロドプシンは桿体細胞に存在するタンパク質で、周囲の光に応じてロドプシンの形(正確にはロドプシンに結合した補因子、レチナールの形)が変化することによって、周囲の光量に適応できるようになります。
ヒトが色を認識するのに活躍するのが錐体細胞ですが、ヒトの眼には
赤錐体/緑錐体/青錐体
の3種類の錐体細胞が存在します。各錐体とも各色の波長範囲の光に最も反応するタンパク質を保有しています。
例えば、「熟したトマトは赤い」という事項は、多くの人にとっての共通認識になっていると思いますが、ヒトがトマトを視たときに、赤錐体が最もよく反応しているためにトマトは赤いと感じるのです。
他、赤と緑を混色すると黄色ができますが、ヒトが「ヒマワリは黄色い」と感じているとき、赤錐体と緑錐体が半分ずつ働いて黄色を認識していると言えます。
このようにして、赤・青・緑の三色のセンサがあれば、その強度の組み合わせ次第で可視光線のどの波長の光も視ることができます。これが、赤錐体、緑錐体、青錐体で様々な色を視ることができる仕組みです。
先ほど、赤・青・緑の三色のセンサがあれば、その強度の組み合わせ次第で可視光線のどの波長の光も視ることができます。と申しましたが、
具体的に赤色の光と緑色の光をどの程度混色すれば黄色に視えるのか?という疑問に当たります。
この疑問を解決するために、等色実験と呼ばれる実験を行い、「どの程度」を定量化した等色関数が提唱されました。
基本的な考え方
①可視光(400~800nm)のすべての波長の光の色は、赤(700nm)・緑(546.1nm)・青(435.8nm)の三色の光の合成で作ることができる。
②「赤、緑、青の光の強度の組み合わせでできる光の色」と「ある波長の光の色」が同じと判断されたとき、「等色である。」と表現する。
③等色になる光の強度の組み合わせは波長によって異なる。その強度の数値を波長を独立変数とする等色関数で表現する。
等色実験は線形代数の考え方を基本とする
xyz空間のすべての位置ベクトルFは3方向のベクトル(x,y,z)の線形結合で表現できる。というものに非常に近い考え方になります。
数式で表現するとしたら以下の通りになります。
ある波長λの光の色F(λ)というのは、それぞれの強度r(λ)、g(λ)、b(λ)の赤色の光R(波長700nm)、緑色の光G(波長546.1nm)、青色の光B(波長435.8nm)の組み合わせで表現できます。という式です。
R,G,Bにはそれぞれ基底ベクトル的性質があり、その線形結合で表現できるF(λ)もベクトル的性質があるので、太字で表現しました。
この、r(λ)、g(λ)、b(λ)の関数を求める実験が等色実験でした。
とある波長λの光を被験者の片目だけに視えるようにし、赤(700nm)・緑(546.1nm)・青(435.8nm)の三色だけで作られる光をもう片目に視えるようにします。赤・緑・青の強度(r,g,b)を徐々に変化させていき、被験者が「同じ色!」と判断したとき、
ある波長λの光は
強度rの赤色(700nm)の光と強度gの緑色(546.1nm)の光と強度bの緑色(435.8nm)の光の合成で表現でき、それらは波長の関数である。 この時のr(λ),g(λ),b(λ)を等色関数と呼ぶ。
これを可視光の全波長にわたって行えば、数式
を結びつけるr(λ)、g(λ)、b(λ)の関数が得られます。
以上の実験を元にして出来上がった等色関数が以下の通りです。
等色実験の被験者はヒトであり、ヒトの視覚を分析した結果がこの等色関数なので、
例えば、ヒトが580nmの光を視たときに、赤錐体が1.7くらい感じ取り、緑錐体が0.8くらい感じ取って結果として黄色に視える。
と表現してよいかと思います。
これでヒトの色の見え方と錐体細胞の働きについて大体わかるようになってきました。
ヒトの眼の仕組みが分かったところで、そこで満足しないところが動物としてのヒトの習性です。実験が行われた1931年頃の写真と言えば白黒でした。ヒトが黄色を黄色として視ることができる仕組みが分かったら、今度は
自分が視た景色や物体を自分が視たとおりに残したい
という欲望が出てきます。ここで考えなければいけないことは
等色関数をいかにして写真技術へ応用するか?
ということになりますが、ここから先は「写真」の話になるので、別資料にまとめることといたします。
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