資料請求番号:TS14
電池の問題は今年のセンター試験に出題されました。私の現役時代にも多くの過去問に電池の問題があったように記憶しています。
今回は、よくある電池のタイプとしてダニエル電池を題材とした名古屋大学の過去問題を解説したいと思います。
次の文章を読み、問1~問5に答えよ。ただしファラデー定数は9.65×104C/mol、原子量はZn = 65.4とする。
ダニエル電池は、(-)Zn|ZnSO4aq|CuSO4aq|Cu(+)で表され、亜鉛板と硫酸亜鉛ZnSO4の水溶液からなる部分と、銅板と硫酸銅CuSO4水溶液からなる部分とが、素焼き板などで区分されて構成されている。
一般に電池は、金属板を電解質の水溶液に浸した2つのユニットAとBを、上の図に示すような塩橋で接続して作ることができる。塩橋は、塩化カリウムKClなど塩の水溶液を寒天などで固めて入れた管であり、溶液同士を電気的に接続する役目をはたす。このような電池を使って、金属イオンになりやすさを知ることができる。2種類の金属板を用いた電池では、一般にイオン化しやすい金属からなるユニットが負極となる。
問1 ダニエル電池が放電しているときの反応をイオン反応式で記せ。
問2 ダニエル電池が965C放電したとき、Zn版の質量は何g変化するか。増加には+、減少には-の符号をつけ、有効数字2桁で求めよ。
問3 下の表中に記号(a)で表した組み合わせからなる電池は、電流がユニットBからユニットAに向かって流れる。電池が放電しているとき、ユニットBの金属板表面で観察される現象を、句読点を含めて25字以内で記せ。
問4 下の表中に記号(b)~(f)で表した組み合わせの中には、どちらかのユニットが不適切であるため、電流を継続的に取り出すことができないものが含まれている。該当するもの1つを選び、その記号と不適切である理由を簡単に記せ。
問5 ユニットAとしてヨウ化カリウムKI水溶液と白金板、ユニットBとして過マンガン酸カリウムKMnO4の硫酸酸性水溶液と白金板からなる、下の表中に記号(g)で示した組み合わせの電池を放電させた。このとき負極および正極で起こる反応を、電子e–を使ったイオン反応式で記せ。
出典:名古屋大学 入学試験過去問題
一般に電池は、金属板を電解質の水溶液に浸したユニットAとユニットBを配線と塩橋で接続して作ることができます。どちらかのユニットが負極、正極になり、負極から正極へ電子が送り込まれます。これはダニエル電池に限らず、全ての電池に共通する仕組みです。
電池の場合、以下の2点をしっかりと理解しているかが重要になるたい。
1、還元剤が負極、酸化剤が正極となる
2、イオン化しやすい金属(イオン化傾向の大きな方の金属)からなるユニットが負極になる
今回の問題だと・・・。
「貸そうかなまああてにするな、ひどすぎる借金」の「あ」の亜鉛と「ど」の銅だから・・・
亜鉛の方がイオン化傾向が大きくて、銅の方が小さいのよね。
そしたら、この問題で亜鉛が負極になっているというのは自然な流れよね。
あ~・・。イオン反応式ってどんなのだったっけかなぁ・・・・。
反応に関与するイオンをイオン式でまとめた反応式。
思い出した?
イオン式?
ホラ、Cu2+とか、Zn2+とか、そういうのイオン式っていうたい。これで出来た反応式がイオン反応式。
この反応式を書くためには、ダニエル電池で放電をすると何が起こるのか予測できんといかんね。
えっと・・・負極から正極へ電子が流れるんだっけ?
せやせや。流れた電子は?どうなる?
正極に行きつく。
行きついてどうなる?
え?え~っと・・・・。
あ、正極には硫酸銅があるから、その銅イオンが電子を貰って銅として析出するんだね。
せやせや!最初からまとめるとな、
①ZnとCuを比べた時、Znの方がイオン化傾向が大きい
②Znが負極、還元剤であり、Cuが正極、酸化剤。
③Znは電子を放出してZn → Zn2++2e–となる。
④電子は負極から正極へ流れる
⑤放出された電子が正極へたどり着く。そこには銅イオンCu2+が存在する。
⑥銅イオンは電子を受け取って金属銅として析出する。Cu2++2e– → Cu
あっ、そういえば負極側の反応式と正極側の反応式を書いて足し合わせてイオン式を作った気がする!
負極:Zn → Zn2++2e–
正極:Cu2++2e– → Cu
それぞれ、酸化還元反応の半反応式なのよね!
せやな!電池ってのはな、化学的に言えば、
負極で起こる酸化反応と正極で起こる還元反応
の組み合わせで出来る酸化還元反応を応用し、起電力を得る装置
と言えるたい。
これでイオン式が書けるな。
うん!負極の反応と正極の反応を足し合わせて・・・
Zn + Cu2+ → Zn2+ + Cu
こうね!
質量変化の問題は、電池絡みでよう出されるよな。電池動かしていると金属がイオンになったり、イオンだった金属が析出したりするからな。
この問題の場合、マイナスかプラスで答えるんならどっちだ?
えっと・・・Zn板の質量変化を聞いてるんでしょ?Znって、負極で
Zn → Zn2++2e–の反応が起こっているワケだから、マイナスよね。
せやな。実際に何g減るかわかるか?
えっとねぇ・・・。965C放電したって言うのと、ファラデー定数が96500C/molだということに注目すると、流れた電子のmol数が分かるのよね。
9.65×102[C]/9.65×104 [C/mol] = 10-2[mol]電子は0.01mol流れたのよ。
それで、さっきの負極の式Zn → Zn2++2e–から、電子0.01mol流れたのなら、0.005molの亜鉛が消費されたことになるから
0.005 [mol]×65.4[g/mol] = 0.327 [g] 有効桁数2桁で答えなさいということなら、
-0.33[g]ね。
せや!その通り!単位も一緒にな、計算するとわかりやすくてええよな!
そうね。ファラデー定数を使ってモルを出すときは電荷÷ファラデー定数って覚えるより、
それぞれの物理量の単位を覚えておいて、単位同士で計算してどう計算したら欲しい単位、今回はgよね、が手に入るかどうか考えるのよ。
うんうん。今回はクーロンをグラムにしたかったから、[C/mol],[g/mol]を使ってクーロンからグラムになるようにしたんやな。
分子量65.4ってのは65.4[g/mol]やからな。
電池の問題になると、クーロンという、新たな単位が登場します。中には「モルだけでもいっぱいいっぱいなのに、クーロンだファラデー定数だ言われても・・・・」
と混乱する方もいるかもしれませんが、「単位と一緒に計算する」ということを意識すれば、問題ありません。ぜひ、単位と一緒に計算するというクセを付けておきましょう。
単位と一緒に計算する意識を付けると物理や化学の計算がラクになります。
電池の放電による質量変化に関する問題の解き方をまとめます。
①電気量を求める(○○Aで××秒放電したという問題文もあります。その際はアンペア数と秒数をかけて電気量を計算します。単位的に言えば[C]=[A・s]なのです)
②電気量からファラデー定数を使って流れた電子のモル数を求める
④半反応式(陰極または陽極の式)から、電子数と質量変化を求めたい物質の数量関係を求める(今回はZn 1molにつき電子2mol)
⑤変化した物質のモル数を求める。
⑥分子量を用いてモル数からグラム数に変換する。
次は電池を組み替えて、表の(a)のような組み合わせにしたそうだ。
放電したとき、何が起こる?という問いだ。
プラチナとアルミだったら明らかにアルミの方がイオン化傾向が大きいから、アルミが負極になるわね。
ということは、アルミから電子が飛び出していくのよ。
負極:Al → Al3++3e–
せやせや。
正極では・・・。電子を受け取るイオンは・・・硫酸のプロトンH+だから、水素が発生するのね。
正極:2H+ + 2e– → H2
そうなると、答えとしては
「水素が発生し金属板表面に気泡が付着する」
といったとこかしら?
せやな!その通り!
いやぁ~だんだん思い出してきたわよ~。大学入試によく出るもんね~電池の問題。
まぁな。一回理解出来りゃ、大したことないんやが、電池全体では酸化還元反応が起きていて、
負極が還元剤の酸化反応で、正極が酸化剤の還元反応やから、電子は負極から正極へ流れるっていうことをイメージできるようになるまで、ちと大変かもしれんな。
問4はさ、これでしょ?エタノール使っているやつでしょ?
なぜそう思うんだ?
他はイオンになるけど、エタノールだけイオンにならないじゃん。
まぁ、正解っちゃ正解だが・・・。もうちょっと化学のちゃんとした言葉で説明しようぜ。
硫酸アルミニウムとか硫酸アンモニウムとか、水に溶けると電離して、イオンになるものを電解質という。
エタノールは水に溶かしても電離せんから非電解質という。
非電解質は電気伝導性をほとんど持たないから、電流を継続的に取り出すことができない。
そっか・・。「エタノールは非電解質の溶質なので、電気伝導性をもたないため、この電池は電流を継続して取り出すことができない」
って答えればいいのか・・・。
まぁな。(ナトリウムエトキシドというものもあるが、高校化学の範囲ではエタノールは電離しない取り扱いでいいだろう。)
最後の問題、電極が両方ともプラチナなのね。
せやな。やから、イオン化傾向で考えるんじゃなしに、水溶液のどっちが酸化剤になって、どっちが還元剤になるのかを自分で考えて正極負極を判断せないかんな。
これ、過マンガン酸カリウムが酸化剤でヨウ化カリウムが還元剤よね。
どうしてそう思うんだ?
なんとなく。だって、過マンガン酸カリウムは強い酸化剤だって習ったから。
まぁ、たくさん問題解いていると、カンがついてきて有名どころはどっちが酸化剤か分かるようになっちまうよな。
とりあえず、真面目に考察するとだな、I–が還元剤やな。酸化数は-1。一方、MnO4–は酸化剤やな。酸化数はMnが+7。
せやから、MnO4–の形をとっているマンガンは非常に強い酸化力をもつんやったな。
それで、還元剤は電子を放出して自身は酸化されるから、負極ね。負極の反応は・・・
負極:2I– → I2 + 2e–
こんな感じ!
・・・あれ?
どうした?
過マンガン酸イオンMnO4–って還元されて何になるんだっけ??確か2種類あって・・・
Mn2+とMnO2があったような・・・。
あ~そこオマエ忘れてしもうていたか~。まぁ、高校生の時は
酸性の場合Mn2+で、塩基性の場合MnO2になることを覚えさせられるんやが・・・。
そうだったっけ・・・。
すっかり忘れてたよ~(笑)
だから硫酸酸性水溶液を・・ってわざわざ問題文に書いてあるのね~。今回の場合はMn2+になるのね。
せやな。(さて、コイツ、ここからイオン式を導き出せるか・・・?)
MnO4–からMn2+になる。
MnO4– → Mn2+
ここから、原子と電荷の数合わせをしないといけない。酸素は、水になるから・・・4分子できるわね。
MnO4– → Mn2+ + 4H2O
そしたら水素原子が8つ必要になるけど、硫酸酸性下だから、プロトン8個が反応に関与してくる。
MnO4– + 8H+ → Mn2+ + 4H2O
最後に電荷あわせで・・・左が7+で右が2+だから、電子が左辺に5つ。
正極:MnO4– + 8H+ + 5e– → Mn2+ + 4H2O
できた。これが正極の反応式よ。
へぇ~。やるじゃん。
どうせできねぇやろ?とか思ってたんでしょ??
まぁな。
ワタシだってやりゃあできるのよ~♪
じゃあ、次の問題行くか?次は慶応の過去問だが・・・
あ、やっぱなんでもない。
電池では
負極が還元剤(イオン化傾向の大きい方)、正極が酸化剤となります。
復習)還元剤は相手を還元させ、自身は酸化する。酸化剤は相手を酸化させ、自身は還元する性質のことを言います。
さらに詳しく言えば、
負極では還元剤が酸化反応を受け、酸化され電子が飛び出します。
正極では酸化剤が電子を受け取って還元反応を受けます。
この一連の酸化還元反応の起電力を取り出す装置を電池と言います。
反応が行われるのは電極である場合と電解質である場合があります。例えば、ダニエル電池の場合、負極では電極が反応しました(反応の結果、減った質量を計算しましたね。)。正極では電解質が反応しました。最後のヨウ化カリウムと過マンガン酸カリウムの問題では両方とも電解質が反応しました。
反応する場所はどちらでも良いのですが、電解質であることと、酸化剤・還元剤がセットになっていることが大切になります。
電池とは逆に負極が酸化剤、正極が還元剤として
正極で還元剤が酸化反応を受け、酸化させて電子を飛び出させ、
負極での酸化剤が還元反応を受けるように外部から電流を加えて化合物を化学分解する装置を
電気分解装置と言います。
化学のテストが始まった、あるいは電池・電気分解の問題に当たった時に
電池 負:還元剤 正:酸化剤 電子:負→正
電気分解 負:酸化剤 正:還元剤 電子:正→負
と書いておけばよいでしょう。
あとは還元剤や酸化剤がどのような働きをして酸化還元反応が行われるのかを、電池の問題だけでなく過マンガン酸カリウム滴定の問題や、酸化数を求める問題などを繰り返し解いてマスターしましょう。そうすれば電池も電気分解も酸化還元反応の一種なので、ラクに見えてくるはずです。
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はじめまして!
記事拝見させていただきました!電池、酸化還元の割と基本的な問題がわかりやすく書かれているので、あまり得意でない人には是非とも読んでいただきたい記事だなと思いました(私自身Twitterの方でアンケートの結果を見て東大、京大に並んで名大のこの問題とありまして、どれほどの難題を引っ張ってくるのかとビクビクしておりました^^;)
受験生が悩むとしたら問4でしょうか。エタノールは非電離質の代表ですが、もしその知識があやふやだと、ベンゼンスルホン酸は高校化学では名前こそは見かけても物性は深く触れないでしょうからその二択で迷うのではと思いました。
過マンガン酸イオンの還元半反応式は見た目はえげつないですよね(笑)それに液性によって酸化数が異なるのも受験生を悩ませるところですよね。過酸化水素や亜硫酸イオンなんかも反応相手によって酸化剤にも還元剤にもなりますし苦労していると思います。
新しい記事を楽しみにしてます
コメントありがとうございます。
大学入試の化学は比較的センター試験の延長的な考え方で十分ではありますが、基礎がしっかりしていないと足元をすくわれます。
ベンゼンスルホン酸については、スルホン酸がどういった構造・性質を持っているのかを知っているかどうかが鍵になります。界面活性剤の性質、コロイドのところで少しだけ出てくるのをしっかりくまなく勉強しているか問われていますね。
難関大学になるほど、色々な単元の知識を組み合わせて解く、総合力が試される問題が増えてきます。
Twitterもみていただき、ありがとうございます。これからのTwitter,ブログともによろしくお願いいたします。