資料請求番号:TS62
人間は食べないと生きていけません。人が食事をする理由を多くの人は
・生きるのに必要なエネルギー源になるため
・体を作るのに必要だから
と答えます。では、食べた物は何がどうなって生きるエネルギーになるのか?を考えたことはありますでしょうか?
また、脂っこいものを食べ過ぎると太るとよく言われていますが、なぜそう言われているのか、考えたことはありますでしょうか?
本記事では、食べ物を食べた後、それがどのような化学変化を起こして私たちの生きる源になっているのかを
クエン酸サイクルとその周辺の代謝経路(解糖系、β酸化、窒素代謝)を説明しながら、解明していきます。
小中学生の時に人が摂る栄養は主に3つに分けられ、それらは三大栄養素ということ勉強したと思います。その三大栄養素は
「タンパク質」「脂質」「炭水化物」です。
あのさ、こないだ名古屋に行ったときに「矢場とん」行ってきたんだよ。
あら♪ホントに?美味しかったでしょ?「矢場とん」いいなぁ~。ワタシ、大学生の時は週に1回は行ってた!
いや・・・なんというか・・・重かった・・。残しはしなかったけど・・。
名古屋の人ってあれをペロっと食べちゃうのか・・・?
うん!少なくともワタシはそうだけど・・ボリューム満点過ぎたの?
ああ・・・。もうしばらくはいいかな・・・って感じ。
そうね~。あれが重いんだったらねぇ・・・。
あ、きしめんなんかいいんじゃない?今度、名古屋行ったときは「きしめん」食べなよ!これだったら大丈夫でしょ?
そっか。じゃあ、次は「きしめん」にするよ・・・。次に名古屋に行くのはいつか知らねぇけど。
それで話を戻すが、俺が食った「矢場とん」なんだが、これを三大栄養素に当てはめると
豚肉がタンパク質で
脂身とかカツが脂質で
ご飯が炭水化物
といったところだな。
タンパク質、脂質、炭水化物はこんな形をしている。
ふぅ~ん。あの矢場とんをずず~っと拡大していくと、こんな形をしているのね~。
ねぇ、この「・・・」って何?
ああ、これは、この構造がずっと長く続くっていう意味だ。こういう構造が繰り返し続いて大きな分子、すなわち高分子になっている。
タンパク質や炭水化物は高分子なんだ。
高分子って、高校化学でも出てくるよね!同じ構造が数珠みたいにいっぱい繋がって出来てるんだよね。
なんだっけ?えーっと・・・ヘキサ・・・ヘキサ・・・えっと・・・
ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸でナイロン66が、
テレフタル酸とエチレングリコールでポリエチレンテレフタレート、ペットボトルの材料ができる・・・だろ?
(なんで5年以上も前に勉強したようなことをサッサと言えるのよ・・・。)
タンパク質や炭水化物のような高分子は、高分子のままだとエネルギーにすることができないんだ。
そこで、タンパク質は主に胃で、炭水化物は主に口腔内と小腸で分解していく。つまり、低分子にするんだ。
低分子にしたうえで、クエン酸サイクルに使える分子に変換するんだ。
ああ、そこで分解って言葉がでてくるわけ?
いや~ぁ、小中学生の時に「食べ物は分解して栄養にします。」って大雑把なことしか教えられなかったから・・・
分解って高分子の低分子化のことだったのね。
・・・ところで脂質は?
脂質も分子量800くらいのデカい分子だ。コイツも小さい分子にしたうえでクエン酸サイクルに載せる。
へぇ~。ということは三大栄養素は全部クエン酸サイクルに載せることができるってこと?
そうなんだ!よく出来てるだろ?
うん!ホントにね!
そしてクエン酸サイクルが1回転すると還元性の物質NADHができる。このミトコンドリアで酸化されるたびにエネルギーが出来て、それを元にATPが作られるというのは前回説明した通りだ。
電子伝達系のハナシだね?
そうだ。そのATPがADPとリン酸になるときにエネルギーが出る。それで俺たちは生きているということだ。
クエン酸サイクルは電子伝達系で使う物質を作るのに重要な役割を果たすんだね!
そうそう。今からお話するのは、そのクエン酸サイクルの全体像と、三大栄養素がどんなふうにしてクエン酸サイクルで使える物質になるのかの説明だ。
ここでは、クエン酸サイクルの全体像を説明します。クエン酸サイクル、TCA回路、クレブス回路とも呼ばれるこの一連の代謝反応にはこんな物質たちが関わっています。
ああ、なんかもう・・・見ただけでめまいがしそう・・・。
そうか?オマエが書くプログラムの方がよっぱどわけわかんないんだがな。
めまいがするったって・・・オマエ、この反応がお前の体のそこら中で起きているんだぜ。
オマエの手、足、お腹、どこでもいいが、全身を作っている細胞の中のミトコンドリアのマトリクスの中で絶えずこのサイクルが回り続けているんだ。
どさくさに紛れて触らないで!
ああ、わりいわりい。(笑)
それで、このサイクルの反応を一つ一つ追っていくぜ。
全体を一瞬だけ見ると結構複雑に見えちゃうけど、一個一個反応を追っていけば水和だったり酸化だったり、基本的な反応ばかりなのね。
そうそう。だから、そんなに身構えることはねぇってことだ。
この、ピルビン酸とかアセチル・・ナントカとかにつながっている大きい矢印はなに?
これは、他の代謝とのつながりを表している。
炭水化物が分解された糖は解糖系でピルビン酸になり、
脂質と一般に呼ばれる中性脂肪はβ酸化でアセチルCoAになる。
タンパク質はアミノ酸になるんだが、アミノ酸の種類によって、色々な代謝経路があって、最終産物もピルビン酸だったり、オキサロ酢酸だったり、2-オキソグルタル酸だったりと様々だ。
なるほど。クエン酸サイクルへの物質の入り口を表しているのね。
そうだ。その通り。
次は、解糖系とβ酸化について説明するぜ。
アミノ酸の代謝については、全部説明するのは面倒だから・・・そうだな。アルギニンの代謝だけ説明するぜ。
お米をしばらく噛んでいると甘くなってくるだろ?
うん。この甘味が好きなのよ~。炊き立てのご飯なんか特にいいよね!
小中学生のころ、デンプン溶液に唾液を入れて、ヨウ素液を入れる実験をしなかったか?
したした!あれさぁ、誰の唾液を入れるかですごく揉めて、最終的にジャンケンで決まるよね!
別に俺はどうでもいいんだが・・・。デリケートな奴はこの実験、嫌だろうな。
それで、デンプンにヨウ素液を入れれば青紫色になるって言うのは、みんな知ってること。
でも、唾液を入れたデンプンにヨウ素液を入れても、ヨウ素液の色のままなんだよな。
あれは、唾液がデンプンを分解しているからなんだ。
ふぅ~ん。あ、思い出した。唾液がデンプンを分解して、糖にしているから食べてると甘くなってくるのよね。
そう。もう一回デンプンの構造を見てみるぜ。丸で囲った部分、グルコースがいっぱい繋がっている。
お米を食べていると、この繰り返し構造が壊れて、グルコース2個ずつの構造になっていく。
このグルコース2個セットの化合物をマルトースと言って、このマルトースが甘いんだ。
へぇ~ ・・・ってことは、低分子の、こういう構造が甘いってこと?
そういうことだ。こういう構造を糖と言って、化学的にはOH基がたくさんついている炭化水素を多価アルコールといって、その多価アルコールを糖という。
ほら、砂糖も甘いだろ?砂糖もこういう形をしていて、マルトースとそっくりじゃないか。
う~ん。デンプンを分解すると糖になって甘いって言うのは中学生の理科でやった気がするけど、
こうやって構造と照らし合わせながら、甘いってことを化学的に考えたことはなかったわ。
高校生の時に合ったと思うけどな。忘れているだけだぜ。多分。
はいはい。ワタシはあなたほど勉強オタクでもないし、記憶力も優れていませんよ~。
それで、マルトースの形になって飲み込まれた炭水化物は小腸でマルトースをグルコースにする。
グルコースになって、小腸で吸収されるのね。
そうだ。その後、小腸で吸収して、血液によって運ばれて、各細胞へ配られ、その細胞質基質で解糖系と呼ばれる代謝経路に入って、クエン酸サイクルの材料になっていくわけだ。
解糖系ってどこでやるの?
細胞質基質だ。まぁ、細胞でやってるってことだな。
解糖系の代謝経路はこんな感じだ。
最後、ピルビン酸になるのね。あ、ピルビン酸はもはや多価アルコールでもないから糖を糖じゃなくする、すなわち解糖系なのね。
そうそう。で、このピルビン酸は?さっきのクエン酸回路をみてみろよ。
このピルビン酸がクエン酸回路に使われるのね!
ご飯や小麦などの炭水化物はデンプンを多く含んでいます。このデンプンは口腔内の唾液に含まれる消化酵素、アミラーゼによって二糖のマルトースに分解されます。
ただし、デンプン全てがマルトースになるわけではなく、中途半端に分解されて糖4個以上の偶数個の状態で飲み込まれる場合もあります。中途半端に分解されたものは十二指腸で再びアミラーゼによってマルトースになり、小腸へ送られます。そして小腸でマルターゼと呼ばれる消化酵素でグルコースとなり、吸収されて血液を介して、細胞質基質へ移動、解糖系を経てピルビン酸になり、クエン酸回路に利用されます。
解糖系は比較的エネルギーの高い(=標準生成エンタルピーの高い)糖が、エネルギーの低い有機酸に変化しているため、その分のエネルギーをATP合成に使用しています。つまり、解糖系だけでもATPができるワケですが、それだけでは足りないのでクエン酸回路があり、電子伝達系があるのです。
また、解糖系は生物の進化の過程で比較的始めの段階で構築された代謝経路であり、嫌気状態(=酸素のない状態)でも機能します。生物が進化するにつれ、その機能がだんだん高度になっていくうちに、解糖系で作られるATPだけでは不十分になってしまい、酸素を使う新しい代謝経路としてクエン酸サイクルと電子伝達系か生まれたと言えるでしょう。
β酸化は、中性脂肪の構成成分である脂肪酸を分解していきアセチルCoAにしていく代謝経路の事を言います。
ただし、摂取した中性脂肪は、その物理化学的性質から、体内での輸送に様々な工夫が必要になります。その工夫を体内動態という言葉で説明します。
みんなが良く言っている脂肪だとか油だとか、そういうものは基本的に中性脂肪のことを言っていることが多い。
中性脂肪は三価アルコール(OH基が3つあるアルコール)であるグリセリンと脂肪酸のエステルだ。
グリセリンには3つのOH基があるわけだから、3つの脂肪酸と1つのグリセリンで中性脂肪になっている。
脂肪酸がグリセリンと結合することで、酸としての性質が消失しているから、わざわざ中性という言葉を使うのね。
そうだ。あと、グリセリンの3つのOH基がアシル化されているから中性脂肪の事をトリアシルグリセロール、略してTAGと呼ぶ。
体の中に入った中性脂肪は、リパーゼによって加水分解されて、脂肪酸が遊離する。この脂肪酸がβ酸化という代謝経路を経て、アセチルCoAができる。
脂肪酸も小腸で吸収されて、血液で運ばれて、各細胞でβ酸化するのね?
ああ、大雑把に言えばそういう感じだ。
大雑把にって・・・どういうことよ?
高校化学を選択して、難関国公立に行ったオマエだったら、この流れでそのまま代謝が進むことに関して「おかしい」と思って欲しい。
何よ、その人を試す上から目線の言い方は・・・。
・・・。
・・・・。
・・・・。
・・・脂肪酸は、炭素が10数個もあるような大きな脂肪酸は水に溶けないから、
そのまま血液に入っちゃったら、血液に溶けなくてすぐに血管詰まらせそう。
あと、小腸でも、水と油が混在していたら、吸収効率悪そう。
・・・・ファイナルアンサー?
茶化さないで!それくらいしか思いつかないわよ!
正解!
(何?この感じ・・・正解だけど全然嬉しくない!)
そうなんだよ。ながーく炭素がくっついている脂肪酸を高級脂肪酸っていうんだけどな。
高級脂肪酸は水に溶けないんだよな。だから、もしそのまま血液に流れ込んだら相分離、つまり水と油に分かれてしまうだろうな。
小腸での吸収効率も相分離していたら格段に下がってしまう。
なぜなら相分離すると小腸の上皮細胞との接触面積が下がってしまうからな。
・・・で?溶けないからどうするの?脂肪酸は水に不溶という問題に対して、何も解決策がなければ、
オマエが大好きな矢場とんも食べられなくなってしまうだろうよ。
何?油を水に溶かす方法を聞いてるの?
その通り。これも高校化学を・・・
ミセルにするか、水溶性の高い物質とくっつけるかすればいいんでしょ!
正解。胆汁に含まれる胆汁酸によってミセル化されるんだ。胆汁酸の構造はこんな形。
確かに疎水部と親水部があるわね。
そうそう。実は、小腸に入る前の十二指腸の段階で中性脂肪がミセル化されている。
つまり、小腸に入る段階でちゃんと混ざり合って1相になっているんだ。
そして、ミセル化された中性脂肪からリパーゼによって脂肪酸が遊離して吸収される。
このとき、脂肪酸が遊離して余った奴、つまり、モノアシルグリセロールも一緒に吸収される。
小腸の細胞に吸収されたら、遊離した脂肪酸とモノアシルグリセロールがエステル化してまた中性脂肪(=トリアシルグリセロール)になる。
え?せっかく脂肪酸を遊離させたのにまたトリアシルグリセロールにしてしまうの?
そうなんだ。そして、血液に入っていくわけだが、さっきオマエが言った通り、今度は水溶性の高い物質とくっつけて血液に流し込む。
その水溶性の高い物質が「キロミクロン」だ。キロミクロンは水溶性のタンパク質でリン脂質に囲まれたボールのような形をしている。
このボールの中に脂肪をトリアシルグリセロールを入れて輸送するのね。リン脂質に埋め込まれているタンパク質も何か意味があるの?
・・・まぁ、あるから、存在しているんでしょうけど。
キロミクロンの形で輸送して、各細胞に入るぞって時にこのたんぱく質がリポタンパクリパーゼ、通称LPLを活性化させる。このLPLというのは血管の壁にあって、活性化したLPLが脂肪酸を遊離させる。そして遊離した脂肪酸が、各細胞へ入っていく。
はぁ・・・これでやっと脂肪酸が細胞質基質の中へ入ることになるのね。
そうだ。ただ、この状態じゃまだβ酸化できない。
え~。まだあるの!?
β酸化は解糖系とは違って、細胞質基質じゃなくてミトコンドリアのマトリクスの中で起こる。つまりは、細胞質基質からマトリクスへ脂肪酸を送ってあげなければならない。
しかも、脂肪酸の状態ではなく、活性化した脂肪酸の状態でβ酸化が行われる。
わけわかんない・・・。
一個ずつ見ていこうぜ。まず、脂肪酸の活性化って言うのは脂肪酸に補酵素Aをくっつける作業のことをいう。
最後のその物質が活性化した脂肪酸なの?それから、補酵素Aってなに?
補酵素Aってのは酵素による反応を円滑に進めるための有機化合物だ。分子量大体700くらいの大きさ。
コイツがあるおかげで酵素の働きを受けられるっていう認識かな。だから「補」酵素という。
それから、補酵素をくっつけたヤツ、これはアシルコエーと呼んでいる。仰る通り、活性化した脂肪酸だ。
アシルCoAは細胞質基質からミトコンドリアの中に入る。
そして、ミトコンドリアのマトリクスに入っていくんだが、アシルCoAの状態ではマトリクスの中には入れない。
まだ何か要るの? ・・・もう疲れた~。
カルニチンという物質をくっつけてマトリクスの中に入れる。この一連の流れをカルニチンシャトルという。
いかにも、アシルCoAを通過させるちょうどいい膜タンパク質がないから、カルニチンを使って無理やり輸送させました!って感じじゃない。
そうなんだ。アシルCoAを通過させるための膜タンパクは存在しない。だから仕方なくカルニチンを使ってマトリクスの中に入れたのち、またアシルCoAに戻してβ酸化をするんだ。
動物の体ってなんかよく出来てるように見えて、ところどころ遠回りしたりとか、もっと上手い方法あるでしょ!ってツッコミしたくなるような反応とか、輸送機構とかあるよね。
進化の過程で、必要になったから仕組を作るみたいな部分もあるよな。
昔からある工場に「何でこんなプロセスがあるんだ??」って思うような装置があるのと似てるし、
それこそ、オマエもプログラミングする時、最初の設計で全てのソフトウェアができるわけじゃないだろ?
確かにね。クラスとかサブルーチンを後付けでつくることはあるわね。
動物の体も永い永い時間をかけて進化したから、こういうとってつけたかのような機構がある。不完全なんだよな。
だからこそ、そういうモノを知るのが面白いんだよな。
(まったくもう、オタクなんだから・・・)
中性脂肪は水に溶けないので、体内の大部分が水である人間の体の中でこれを輸送するにはいろいろな工夫が必要になります。その工夫がミセル化であったり、水溶性タンパク質との結合だったりするのです。
中性脂肪の体内動態をまとめると
①摂取した中性脂肪が十二指腸に到達する
②十二指腸で胆汁を浴びてミセル化される
③小腸内でリパーゼによってモノアシルグリセロールと脂肪酸に分解される
④小腸に吸収された後、再びトリアシルグリセロール(=中性脂肪)に戻る
⑤キロミクロンに包まれて、血液によって体中に輸送される
⑥血液から末梢組織(体中のあらゆる細胞)に入るときにトリアシルグリセロールから脂肪酸が遊離する
⑦遊離した脂肪酸は細胞質基質で補酵素Aと結合しアシルCoAとなる
⑧アシルCoAがミトコンドリアの中へ入る
⑨マトリクスの中へカルニチンと結合した状態で入り、入ったあと、カルニチンが遊離してアシルCoAに戻る
⑩マトリクス内のアシルCoAがβ酸化を受けてアセチルCoAが生成する。
となります。糖の輸送と比べて、かなりの複雑なステップになっていることがわかります。
脂質は数十個の炭素からなるだけあってタンパク質や炭水化物と比べてたくさんのエネルギーを取り出すことができる栄養素です。
(原子同士の結合を壊すことでエネルギーを取り出しているわけですから、大きい分子の脂質は高エネルギーということです。)
生命活動を営むにあたって価値の高いこの物質を何とかして使えるようにしようと進化した結果が上記のような複雑な機構を産んだのです。
中性脂肪の体内動態はこれだけではありません。人間は脂肪を蓄えることができます。蓄えて置き、タンパク質や糖質が足りなくなったら、脂肪からエネルギーを取り出せるようにできています。
生き残るために高エネルギーの物質を蓄えて置き、必要になったら、それを取り出して使う。非常に理に叶ったエネルギーの使い方をしているのです。
しかし、この飽食の時代ではそのエネルギーの使い方が災いして、太るという悩みとなるのです。
さて、ハナシは戻るが、カルニチンシャトルで入ったアシルCoAはようやくβ酸化できる状態になる。
ところで、β酸化のβって何?
アシルCoAのケト基の炭素あるだろ?その隣の炭素をα炭素、そのまた隣をβ炭素という。
このβ炭素が酸化されるから、β酸化なんだ。反応を見てみるぜ。
解糖系よりはわかりやすくて良かった・・・。
β酸化が一回行われたら、一つのアセチルCoAと炭素が2つ減ったアシルCoAができるのがわかるだろ?
うん。
β酸化ってのは、脂肪酸の炭素を2個ずつ切り出していく代謝なんだ。そういう都合で、天然に存在する脂肪酸のほとんどが炭素数偶数個なんだ。
β酸化によって生成したアセチルCoAはクエン酸回路に入り、電子伝達系を経てエネルギーを生み出します。中性脂肪はこのようにして、エネルギーとして利用されるのです。
摂取したタンパク質は、胃の中の消化酵素、ペプシンによって大雑把に分解してペプトンと呼ばれる、タンパク質とアミノ酸の中間的な分子量の物質にします。
ペプシンはpH1~2で活性を示す珍しい酵素です。
今までのハナシからして、胃の中で食べ物を酸によって溶かして吸収するっていう、巷でよく聞く話ってよく考えたらおかしくない?
小さいころ、そういう風に教わったのか?
うん。
なぜ、おかしいと思う?
糖は口の中と小腸、
脂肪は十二指腸でミセル化されて小腸でとりこんで、色々あって吸収されるじゃない。
で、タンパク質は酸で分解するんじゃなくてペプシンという消化酵素で分解するわけじゃない。
正直、胃の中が酸性である必要ってないら?
面白いこと言うなぁ・・確かにその通りだ。その考え、俺にはなかった。うん。面白い。
確かに、消化の都合上、胃の中が酸性である必要はないし、食べ物を胃の酸で溶かして吸収するってハナシはへんなか話だな。
へんなか?
妙なとか、おかしいとかそういう意味だ。
・・・あれだな。おそらく、殺菌をするために胃の中が酸性で、そのなかで働くように消化酵素が適応したって言うのが、正しい筋なんじゃねぇのか?
あ~。食べた物の中にいた微生物が体に悪さをしない様に殺菌して十二指腸とか小腸に送る。そのために胃が酸性なのね。
・・・・。
何してるの?いきなりスマホ触りだして・・・。
調べてる。今言ったことは俺の主観的推測にすぎない。裏取りはしっかりしねぇとな。
・・・・
うん。胃の中が酸性な理由は殺菌で正しいようだな。でも、オマエの言う通り、酸で食べ物を分解しているわけじゃねぇ。
あくまで分解しているのは酸性下で働くペプシンという消化酵素だ。
オマエのお陰で一個知ることができたよ。ありがとう
・・・うん。
(ストークって、色んな専門分野の人とこういう会話ばっかりしているから、色々知ってるのね・・・。
地アタマがいいから色々知ってるワケじゃないのかな。
なんだかんだ言って博識な人との会話って面白いなぁ。)
それでだ。胃の中で大雑把に分解したタンパク質、ペプトンが
十二指腸で膵液を浴びてオリゴペプチド、アミノ酸数個の分子量まで分解されていく。この時の酵素がトリプシンとキモトリプシンだ。
最後に、アミノ酸を一個一個切り出す酵素、ペプチターゼによってアミノ酸になる。
アミノ酸は20種類あって、それぞれ、色々な代謝経路を持っているのよね。
そうだ。最終的にはクエン酸サイクルの物質のどれかになるようにできている。とりあえず、全部説明するのはだるいから、アルギニンだけ説明するぜ。
これがアルギニンからクエン酸サイクルの構成物質の一つである、2-オキソグルタル酸になるまでの経路だ。
・・・なんか、慣れてきた気がする。
それはそれは(笑)。苦手意識がなくなるのはいいことだ。
これ、ちょこちょこ余計なモノが出来てるじゃない。ATPでもNADHでもFADHでもないし。エネルギー生産に使えるの?
ああ、カルバミドとかアンモニアとかそういうやつか?使えねぇな。
脂肪の様に蓄えることができればいいんだが、基本的に窒素は蓄えることができない。
エネルギーにもならねぇ、蓄えておくこともできねぇ、捨てるしかねぇな。
どうやって捨てる?
・・・う~んなんだろうね。わからない。
そうだな・・・。ヒント。
アンモニアはオルニチン回路でカルバミドに無毒化される。
で、カルバミドは水に溶ける。カルバミドは液体の形で捨てる。
・・・わかった。
どうやって捨てるかわかった?
何?今日捨てた?
・・・言いたくない。もうやだ・・・今日捨てた?とか何?その最悪な質問・・・。
・・・・。
・・・わかったわよ。言えばいいんでしょ!尿でしょ?オシッコでしょ?
っていうか、思い出した。ケト基にアミノ基が二つ結合したこのカルバミドって分子は尿素じゃない。
私にこれを言わせるためにわざわざカルバミドっていうちょっとひねった呼び方したのね!!?
しかもオルニチン回路だって尿素回路って言えばいいものを ・・・もう最悪。
(・・・かわいい。)
(調子に乗って聞かなきゃよかった。少なくとも尿素の構造を知っておけばこんなことには・・・・)
まじめな話、脂肪は蓄えることができるんだが、アミノ酸は蓄えることができないんだ。だから毎日食べては尿素の形にして捨てなくちゃいけない。このことを窒素平衡という。
食べ過ぎると太っていくのに、食べ過ぎて筋肉バキバキにならないのはこういう理由だ。なんだかなぁ、って感じだよなぁ、もし窒素を蓄えることが出来たら、誰もがみな理想体なれるのにな。
・・・・。
シママ?
・・・・。(ストークと話すのが楽しいと思ったワタシがバカだった)
(あちゃ~。からかい過ぎちまったなぁ・・・。
オルニチン回路と鳥はなぜオシッコをしないのか?という面白い話をしようと思ったが、また今度だな。)
今回は、人間が食べた物がどのように変化して、エネルギーとして取り出しているのか?について、まずはクエン酸サイクルを説明して、次にそのサイクルに至るまでの過程を三大栄養素別に解説しました。
それぞれ、食べた物がどこで分解され、化学変化を受けて、エネルギーになるのか?行きつく先はクエン酸サイクルですが、それに至るまでの過程は実に様々です。
全く違う構造をした物質たちが全く違う経路を経て、最終的には全てクエン酸サイクルに行きつく。
これって、凄いことだと思いませんか?
人間が獲得できるであろう栄養素は取りこぼしなくクエン酸サイクルに回して、電子伝達系に持っていきエネルギーにするその仕組みが誰にもみな備わっているのです。
だからご飯を食べ、呼吸をする。毎日毎日、当たり前にやっていることが実はこんなにも凄い事なんだということを実感いただければ幸いです。
この記事はおそらく、今までの記事と比較して最長です。作成にかかった期間も最長です。
電子伝達系の記事と合わせてこれを書こうと思った理由は、何気なく大学生の時に使った生化学のノートを見てみたときに、
もう何が何だかわかんない!!
という気持ちになったからです。せっかくお金と時間をかけて知識を習得した、さらにその軌跡があるのに、忘れちゃった~で済ますのは嫌だな。と思ってこの記事を書きました。
よって思い出したり、バイオテクノロジーを専攻した友人に色々聞いたり、生化学の教科書を見直したりするのに時間がかかりました。
執筆者である、私しままるは実際にストークの様にパッパカ思い出してしゃべれません(笑)。