こんにちは。この連載では、化学工学を実務で活かすための基本から応用までを、全10回にわたってご紹介しています。
前回は、ポンプや圧縮機、容器、配管といった「装置・機器の基礎知識」を取り上げました。
第3回となる今回は、圧力や温度といったプロセス運転に欠かせないパラメータをどのように管理し、安全設計を施すのかにフォーカスします。
高温高圧をはじめとした危険が伴う工程では、適切な制御と設備保護策が欠かせません。具体的なトラブル事例も交えながらご紹介します。
化学プロセスは、材料の性質や化学反応の特性によって、最適な圧力・温度条件が設定されることが多いです。
例えば、「高温にするほど反応が進みやすいが、副反応やコストが増大する」「高圧にするほど収率が上がるが、設備負担が大きくなる」など、様々なトレードオフがあります。
そのため、適切な管理と安全設計によって、プロセス効率とリスク低減を両立させることが重要です。
もちろん、実在気体の振る舞いを考慮する必要もありますが、ベースラインとしてPV=nRTを使う場面は多いです。
例えば、反応器の設計で、温度上昇に伴う圧力変化をざっくり見積もる際に活躍します。
こうした初期検討にPV=nRTは非常に便利。
しかし高圧領域や低温領域では実在気体係数(圧縮係数など)を導入して、より正確な設計を行うことが一般的です。
高温プロセスでは、反応熱や外部熱源が重なって突発的に温度が急上昇する「暴走反応」の危険性があります。
そこで活躍するのが、冷却設備や複数の温度センサーによる冗長化、異常高温を検知した際の緊急停止システムなど。
また、使用する素材も重要で、耐熱温度を超えると配管や容器が変形・破断してしまう恐れがあります。
圧力容器は、設計圧力や設計温度、許容応力などをもとに厳密に設計されます。
実際には、板厚計算や溶接部の強度試験、非破壊検査(X線や超音波)などを経て、所定の安全基準を満たしたものだけが使用許可を得られます。
さらに、過剰な圧力がかかった場合を想定して、安全弁(リリーフバルブ)や破裂板を設置するのが一般的です。
これらのリリーフ装置は、想定する最大圧力や流体の性質に合わせて容量や設置場所を決めます。
ヒートエクスチェンジャーは、熱エネルギーを効率よく移動させるための装置です。
一般的には以下のタイプがあります:
温度制御をスムーズに行うためには、熱交換面積の計算や流量・圧力損失の評価が欠かせません。
また、汚れ(ファウリング)やスケールの付着を防ぐメンテナンスも重要です。
圧力・温度管理に絡んで起こりやすいトラブルとしては、以下のようなものがあります:
これらを防ぐためには、定期的な点検と予防保全が欠かせません。また、万一異常が起きたときのために緊急遮断弁(ESD)や自動停止システムを整備しておくことが重要です。
圧力・温度管理は、化学プロセスの安全運転と効率的な生産を支える重要なテーマです。
反応器や圧力容器を設計する際は、設計圧力・温度を正しく見積もるだけでなく、安全弁や破裂板などによる二重・三重の防護策を用意し、高温プロセスでは暴走反応対策を徹底する必要があります。
また、センサー冗長化や日常点検など運用面での細かい気配りが、大事故を未然に防ぐカギとなるでしょう。
次回の第4回では、可燃性ガス・毒性ガスなどの危険性評価と、リスクマネジメントに焦点を当てます。
代表的なガスの取扱い事例や漏洩時の対策、緊急対応などを詳しく解説していきますので、どうぞお楽しみに!