前回(第8回)はセキュリティ分野を取り上げ、暗号や認証、マルウェアの概要などを学びました。今回は、プロジェクトマネジメントの基礎を詳しく解説します。ITシステム開発において、規模の大小を問わずプロジェクトを適切に管理する知識は非常に重要で、基本情報技術者試験でもマネジメント分野として頻出です。
この記事では、プロジェクトマネジメントの全体像や開発モデル(ウォーターフォール、アジャイル)、WBS(Work Breakdown Structure)やガントチャートを活用した進捗管理、品質管理やリスク管理など、試験で押さえておくべきポイントを広く取り上げます。PMBOK(Project Management Body of Knowledge)の基本的な考え方にも触れながら、内容を整理していきましょう。
プロジェクトとは、「一定期間内に、独自の成果物を生み出すための一時的な取り組み」と定義されます。IT開発プロジェクトであれば、新しいシステムやサービスをリリースするのが目的です。そして、プロジェクトマネジメントとは、このプロジェクトを円滑に進めるために計画・実行・監視・コントロール・終結のプロセスを統合的に管理することを指します。
PMBOKによると、プロジェクトマネジメントには以下の10の知識エリアがあります:
基本情報技術者試験では、これらすべてを深堀りするわけではなく、スコープ・スケジュール・コスト・品質・リスクあたりの基礎知識が頻出です。
ウォーターフォールモデルは、開発工程を上流から下流へ順番に進める伝統的な手法で、「要件定義 → 基本設計 → 詳細設計 → 実装 → テスト → 運用・保守」という形で段階的に作業を行います。
基本情報技術者試験では、ウォーターフォールモデルが最も代表的な開発モデルとして出題されます。各工程の概要やメリット・デメリットを把握しておきましょう。
アジャイル開発は、「変化に対応しやすい」「顧客とのコミュニケーションを重視」する開発手法の総称です。短いスプリント(反復開発サイクル)を繰り返し、動くソフトウェアを早期にリリースしながら、フィードバックを取り込みます。
基本情報技術者試験では、アジャイルの特徴(反復・進化型、顧客と開発チームの密な協力など)や、ウォーターフォールとの対比が問われることがあります。
WBSは、プロジェクトの作業を階層的に分割した構造図です。大まかに「要件定義」「設計」「実装」「テスト」といったレベルから、さらに細かく作業項目をブレイクダウンしていきます。WBSを作ることで、
試験では、WBSを作成する際の注意点(作業範囲の抜け漏れ防止、作業粒度の適切化など)や、ガントチャートとの連携が問われることがあります。
WBSで洗い出した各作業の工数や依存関係をもとに、ガントチャートを作成します。ガントチャートは、横軸に時間、縦軸に作業項目を取り、バーで各作業の開始日・終了日・進捗状況を視覚的に表示するスケジュール管理ツールです。
さらに、作業のネットワーク図を描き、全体工期を決定する際に重要なのがクリティカルパスです。クリティカルパス上のタスクが遅れると、プロジェクト全体の納期に直結します。試験では、「最長経路」=クリティカルパス、という概念を理解し、計算問題が出ることもあります。
品質管理は、プロダクトやプロセスが要求される品質を満たすように計画・監視・改善を行う活動です。コスト・納期・品質はプロジェクトの三大要素とされ、どれかを犠牲にすると他にも影響が出ることが多く、バランスが求められます。
基本情報技術者試験では、「なぜ品質管理が重要なのか」や、「品質を測る代表的な指標」(欠陥密度、顧客満足度など)に関する問題が登場します。
品質を確保するうえで重要なのがソフトウェアテストです。代表的なテスト手法として、
試験では、「ブラックボックステストとホワイトボックステストの違い」や、「テスト工程の進め方」がよく問われます。V字モデル(要件定義と受け入れテスト、基本設計とシステムテスト、詳細設計と結合テスト、実装と単体テスト)も要チェックです。
プロジェクトには常にリスク(不確実な要素)が伴います。リスク管理では、リスクを特定し、影響と発生確率を評価したうえで、対策を計画・実行します。
基本情報技術者試験では、リスクマトリックス(影響度×発生確率)や、具体的なリスク対応策の種類が問われることがあります。
プロジェクト期間中には、要件変更やスケジュール変更が生じる可能性が高いです。変更管理では、変更に伴う影響(工数・コスト・リスク)を評価し、承認プロセスを経たうえで確実に実施します。
また、ソフトウェア開発ではソースコードやドキュメントの更新が頻繁に発生するため、バージョン管理ツール(Git, Subversionなど)を使い、誰がいつ何を変更したかを記録しつつ共同開発を行うのが一般的です。
ITプロジェクトでは、開発チームやベンダー、顧客、経営層など多くの人々が関わります。コミュニケーションマネジメントやステークホルダーマネジメントの重要性を理解しておくことも大切です。
試験では、このあたりは「プロジェクトマネージャが果たすべき役割」として総合的に問われたり、事例問題で「コミュニケーション不足によるトラブル」などが登場することがあります。
基本情報技術者試験では、用語の意味や基本手順が問われることが多い一方、午後試験ではある程度の事例や計算問題(クリティカルパスの算出、コスト見積りなど)が出題される場合があります。しっかりと用語を整理し、過去問や演習問題で応用的な問題にも慣れておくとよいでしょう。
次回(第10回)は、マネジメント・ストラテジ系の続きとして、経営戦略やビジネスとITの関係を扱います。3C分析やSWOT分析などの経営手法や、IT戦略立案、ビジネスモデルと情報システムの連携などを幅広く解説していきます。お楽しみに!