前回(第10回)は経営戦略とITの関係について学び、3C分析やSWOT分析、IT戦略立案の考え方などを整理しました。今回は、法務や標準化、知的財産権を取り上げます。ITエンジニアとして活動する上でも、「法律やルールを守った上で適切に業務を遂行できるか」が求められますので、基本的な法的知識をしっかりと身につけましょう。
この記事では、著作権や特許権などの知的財産権に関する基礎や、個人情報保護法や不正アクセス禁止法などの主要な法律、ISO・IECなどの標準化団体が担う役割などを網羅的に解説します。基本情報技術者試験の午前試験で問われやすいポイントも含むので、ぜひ参考にしてください。
知的財産権とは、人間の創作活動や発明などに対する権利の総称です。IT分野では、ソフトウェアやデータ、コンテンツなどが対象になるケースが多く、権利侵害リスクに注意が必要です。
基本情報技術者試験では、著作権や特許権の違い、商標権が保護する対象など、権利ごとの概念を理解しておく必要があります。
著作権は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」を保護します。プログラムやWeb上の文章、画像、動画、音楽などは基本的に著作権の対象になり得ます。なお、アイデアそのものは著作権では保護されません。
試験では、「著作権保護期間の起算点」や「アイデアは保護対象外」といった知識が問われることがあります。
著作権は大きく分けて2種類:
ただし、私的使用のための複製や、引用といった一定の範囲で利用が許される「権利の制限」もあります。引用に関しては「出典を明示」「主従関係が明確」などの要件を満たす必要がある点に注意しましょう。
特許権は「高度な技術的発明」を保護し、原則として申請から20年間(出願日基準)発明を独占的に実施できる権利です。ただし、新規性や進歩性などの要件を満たさなければ特許は成立しません。
ITの分野では、ソフトウェアに関する特許(ビジネス方法特許など)も存在しますが、著作権との混同に注意が必要です。プログラムの具体的なアルゴリズムや処理方法が発明として認められれば特許となりますが、コードの創作的表現は著作権で保護されます。
商標権は、商品やサービスに使用されるマーク(名称、ロゴ、図形など)を保護します。たとえば「○○というブランド名」「企業ロゴ」などが商標登録されているケースが多数あります。
IT分野では、アプリケーション名やサービス名を商標として登録することで、類似名の使用を排除できるメリットがあります。
著作権法や特許法で保護されないノウハウや営業秘密などを守るために、「不正競争防止法」が存在します。営業秘密(顧客名簿、製造方法、技術情報など)を不正取得・使用したり、他社製品を模倣したりする行為を禁止する法律です。
不正競争防止法には「営業秘密の保持義務」や「競合企業への転職時の注意」なども含まれるため、エンジニアとしては前職のノウハウ持ち出しが違法となる可能性がある点などに注意が必要です。
日本では、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)によって、事業者が扱う個人情報を適正に管理し、プライバシー侵害を防止する仕組みが整えられています。
基本情報技術者試験では、「個人情報の定義」「要配慮個人情報の扱い」「プライバシーポリシー策定」などがよく問われます。また、欧州のGDPR(General Data Protection Regulation)との対比が出題されるケースもあります。
試験では、「なりすましログイン」や「アクセス制御回避」などが不正アクセス禁止法で禁止される行為であることを理解しておきましょう。プロバイダ責任制限法に関しては、「ISPやSNS運営者がどの程度責任を負うか」などの論点が出る場合があります。
IT分野では、さまざまなハードウェア・ソフトウェア・ネットワークが相互にやり取りするために、標準化が欠かせません。標準化団体が策定する規格(スタンダード)に基づき、異なるベンダーの製品同士でも互換性が保たれます。
ISO規格のうち、品質管理(ISO 9001)や情報セキュリティ(ISO/IEC 27001)などは、ITエンジニアが取得するケースも多く、試験でも出題されることがあります。
LANで使用される規格(IEEE 802.3 がEthernet、IEEE 802.11 がWi-Fiなど)や、Web技術のHTML5やCSS3といった規格は、基本情報技術者試験のネットワーク分野やWeb分野と絡めて出題される可能性があります。
最後に、ITエンジニアに関係する法的責任や契約上の注意点をまとめておきます。
基本情報技術者試験では、企業間契約の形態や、納品後の瑕疵担保責任(契約不適合責任)など、現場で起こりうる法的トラブル事例が題材に出ることがあります。IT契約の種類と責任範囲を概観しておきましょう。
基本情報技術者試験では、これら法的側面が午前試験や午後試験の事例問題で出題されることがあります。特に知的財産権や個人情報保護は頻出テーマですので、法律の目的や保護対象、制限条項をテキストや過去問でしっかり確認しておきましょう。
次回(第12回)は午後試験対策の一環として、午後問題の攻略法と設問形式、時間配分などを再度整理していく予定です。午前対策が一段落した読者の方は、午後試験でどのように得点を伸ばすか、一緒に学習していきましょう!