前回(第9回)はプロジェクトマネジメントについて解説し、ウォーターフォールモデルやアジャイル開発、WBS、リスク管理などを学習しました。今回は同じマネジメント・ストラテジ系の続きとして、経営戦略とビジネスとITの関係に焦点を当てます。情報処理技術者試験では、ITエンジニアであっても企業経営やビジネス戦略の全体像を理解しているかが問われるため、非常に重要なトピックとなります。
この記事では、3C分析やSWOT分析などの代表的な経営分析手法、IT戦略立案やビジネスモデルの構築、DX(デジタルトランスフォーメーション)の概念など、試験で頻出となるテーマを整理していきます。企業活動と情報システムをどのように結び付けているのか、その理解が求められますので、しっかり押さえていきましょう。
企業が競争力を高めるためには、経営環境を分析し、明確な経営戦略を策定することが不可欠です。ITを活用したビジネス改革は、単なる業務の効率化だけでなく、新たなサービス創出や市場開拓をも可能にします。「ビジネス戦略とIT戦略の連携」が今や企業の成否を左右するといっても過言ではありません。
基本情報技術者試験では、これらの要素を踏まえた上で、IT人材として経営にどのように寄与できるかという観点が問われます。具体的には、経営分析手法やIT戦略策定プロセスなどの知識が出題されることが多いです。
3C分析は、以下の3つの要素について自社を取り巻く環境を整理するフレームワークです。
IT戦略の立案でも、この3C分析から得た知見をもとに「どの顧客層に、どんな技術・システムを提供して差別化するか」を検討することが多いです。試験では、3Cそれぞれの視点でどんな項目を分析するかを把握しておきましょう。
SWOT分析は、事業や製品を取り巻く環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つに整理するフレームワークです。
SWOT分析では、内部要因(S/W)と外部要因(O/T)を明確に区別した上で、SO戦略やWT戦略などのマトリックスを活用して、具体的な戦略立案へ結びつけます。基本情報技術者試験では、「自社の強みを活かしてどの機会をつかむのか」といった具体的思考を求める問題が出ることがあります。
企業の経営戦略が策定されたら、それを支える形でIT戦略を立てるのが通例です。IT戦略とは「どんな情報システムやインフラを整備することで、経営目標を達成するか」を示す指針です。
試験問題では、経営戦略と整合性が取れたIT戦略を構築できるか、という観点が問われやすいです。また、ITガバナンスやIT投資評価(ROI/IRRなど)も関連テーマとして出題されます。
情報システム導入の企画段階では、以下のようなプロセスを辿ることが多いです。
基本情報技術者試験では、これらの流れを俯瞰して「どの段階でどんな作業を行うか」を理解しておく必要があります。特に、ビジネス要件定義→システム化要件定義→業務要件定義というプロセスを混同しないよう注意しましょう。
企業が収益を上げる仕組み(ビジネスモデル)は多種多様です。基本情報技術者試験では、以下のような代表的ビジネスモデルや、そのITによる実装形態がよく出題されます。
試験では、どのようなビジネスモデルでITが活用されているかや、「ECサイトを運営する場合に必要となる機能やシステムは何か」といった観点が問われることがあります。
DX(Digital Transformation)とは、ITやデジタル技術を駆使して企業のビジネスモデルや組織文化を変革し、新たな価値を創出することを指します。具体例として、
試験では、「DXによって企業は何を目指しているか」「どのようなIT基盤が必要か」などが問われることがあります。DXは単なるシステム導入ではなく、ビジネスそのものの革新を意図している点がポイントです。
企業規模が大きくなると、複数の情報システムやプロジェクトを統括し、全社的に整合性をとるための仕組みが必要になります。これを一般にITガバナンスと呼びます。
基本情報技術者試験では、「ITガバナンスが弱いとどうなるか」「意思決定プロセスを標準化する目的」などが問われます。さらに、以下のようなベストプラクティスを言及することもあります。
試験では、「ITILはサービス運用のベストプラクティス」「COBITはITガバナンス全般の統制フレームワーク」という大まかな位置づけを理解しておくとよいでしょう。
基本情報技術者試験では、経営戦略やビジネスモデルそのものを深く問われるわけではありませんが、ITエンジニアが経営視点を踏まえてシステムを提案・運用するという観点から、一定レベルの知識を求められます。過去問やテキストでキーワードとその意味を確実に押さえておきましょう。
次回(第11回)は、法務や知的財産権、標準化団体といったトピックを扱う予定です。情報処理安全確保支援士試験などでも重視される法的知識を一緒に確認していきますので、ぜひご期待ください!